両親に啖呵を切って大学を辞めたものの、歌手への道を諦めかけていたと話すryuki。そんな彼に転機が訪れたのはつい最近のこと。

「ひょんなことから音楽プロデューサーの沖添友紀さんと知り合うことになり、自分がぼそっと“最後にアルバムでも作りたかったな”とつぶやいたんです。そしたら沖添さんがこれまでの楽曲を聞いてくれて、“アルバムつくろうよ”と言ってくれました。

 最初は今まで心配をかけた両親にベストアルバムを作ってプレゼントするくらいの気持ちでした」

 思い出作りのアルバム制作。そんな気持ちで進めていたレコーディングで、沖添友紀氏からこんなことを言われた。

《あなたの良さは人間味!それが音楽にも声にも出てるから、せっかくアルバム作るんだったらさ、ちゃんとやってみない?》

 忘れられないその瞬間。

「ずっと誰かに言われたかった言葉でした。歌手になりたいという割には、自分に自信がない部分があった。知ってる人だけ知ってくれてたらいいのかなって。でもその一言でハッとしたんです。自分が自分をいちばん信じなきゃいけないって。

 後ろ向きだった自分をプロデュースしたいと思ってもらえた。そんな奇跡みたいな出来事に感謝の気持ちでいっぱいですし、見事にやる気スイッチを押してもらった気がします」

 とはいえ、彼は36歳。遅咲きと言われることもあるかもしれない。それでも彼は今の状況に笑顔でこう話す。

36歳にもなって、まだ夢を見るの?とか思われるかもしれないですが、逆に36歳からでも夢を追いかけられるんだ。といういうことを証明したいと思いました。

 夢を見ること、実現するために自分を奮い立たせて走り出すこと。それはいくつになっても遅くはないということを体現したいです」

 周りをパッと明るくする彼の雰囲気。そんな彼が今回リリースするアルバムには亡き祖父への想いを込めた1曲がある。

「身近な存在と死別する感覚は誰しも壮絶なつらさだと思います。人の“死”に直面してはじめて感じたこと、大好きだった人を失ったつらさを込めて作りました。

 でも、作っていく中で、“大切な人は自分の心の中で生き続けている”ということに気づきました。人の温かい思い出は色褪せることはないと思うんです」

ryuki hajimu「夕暮れ」Official Music Video

 今回プロデュースする沖添友紀氏にも話を聞いた。

「ryukiの音楽は歌詞やメロディを超越した感情や音楽性で、歌声を聴くだけでその時々の心境や風景が浮かぶんです。それを1秒たりとも損なわずにお届けしたいと思ったのが一番のきっかけとなりました。

 彼が20歳から作り溜めた楽曲を世に出す上で大事にしたのは、16年という長い時間の中で心境の変化や時の流れ、人々とのつながりを感じてもらうこと。このデビューアルバムは全曲を通して1つのストーリーになっているんです。なぜなら“人はストーリーによって動かされる”からです」

 またryukiの音楽性について沖添氏はこう続ける。

「奄美大島を題材に扱った楽曲において、奄美民謡でも頻繁に使用される“グイン”という裏声を使ったこぶしを使い、また編曲を行う際にも、奄美の律音階を使用しました。このように楽曲に応じて、声色を変化させる事ができるのは彼の強みの一つ。アルバム収録楽曲では、多種多様な表情をみせてくれます」

 インタビュー中も笑顔が溢れ、スタッフへの気配りも忘れないryuki。これまで彼が紡いできた楽曲や人柄に心動かされた人も多いだろう。そんな彼の音楽の一番の理解者、沖添氏はインタビューの終盤、筆者へこう話した。

「最後に、ryuki hajimuの作る音楽には全てに《アイ》があります。自分のために歌うのではなく、目に見えない“誰か”のために届けたい《アイ》があります。1曲1曲に込められた《アイ》を1人でも多くの方に受け取っていただれば本当に嬉しいと思っています」

ryuki hajimu ●シンガーソングライター。1987年9月3日。鹿児島県奄美大島出身。A型。乙女座。6月29日 1st Major Début Album『Cheerful Land』をrelease。各配信サイトにて配信中。Instagram@ryukihajimu93 ryuki hajimu official website→https://www.ryuki-hajimu.com/

取材・文/佐々木一城