なぜ、桐生市職員はわざわざこの一件だけ「福祉職員が代筆」と記録を残したのだろうか? そもそも法に触れる行為であり、福祉施設に代筆なんてするメリットはないのだ。それに、親族は行方不明で実際の援助は見込めないわけだから、女性は福祉施設にも料金を払えなかった可能性すらある。その場合は福祉施設が被っているはずだ。

「市に脅されでもしない限り、扶養届の代筆なんて絶対にしません!」都内でケアマネとして働く知人も、群馬県内で福祉施設に勤務する知人、友人も「断じてしない」「ありえない」「聞いたことがない」と一様に驚き、衝撃を受けている。
 
 加えて、桐生市の扶養届のひな形には、「不足分・不足額を援助」という項目はない。それなのに、県の行った調査では、この「不足分・不足額を援助」という記載が多く見つかったそうだ。

 虚偽の扶養届を代筆したのは誰なんだろうか?

過去10年間で生活保護率が半減した理由

 桐生市の保護率減少は、これまで市が説明していたような高齢化などの自然減少なのか、それとも組織的要因が絡むのかという質問に対し、県は「組織的かどうかの確認はできなかったが」と前置きした上で、申請と保護開始件数が少なく、申請権侵害の疑いや、あるかどうかも分からない仕送りを根拠にした却下による事例がたくさんあることが、減少の一因になっているだろうと分析した。

 地元で困窮者支援をする人達も、筆者も、桐生市で過去あるいは現在、苛烈な水際にあった人達の証言を多数聞いている。

 申請すら不可能なほどに撥ねつけられ、暴言を吐かれ、人格を否定され、ようやく生活保護申請できても、虚偽の扶養届を根拠に保護が却下されたりもする。たとえ保護が決定しても厳しい就労指導が待っている。毎日ハローワークへ行くよう指導され、引き換えに一日1000円を窓口で渡される屈辱を味わう。この物価高の昨今、支給されるべき保護費を満額受け取れない。あるいは金銭管理団体に分割支給をされ、最低生活費以下の生活を強いられる日々に終わりは見えない。自分のお金なのに、預けている通帳残高がいくらかも分からない。こんなことをされていたとしたら、保護率が半減するのは当然だろう。

 ちなみに群馬県は、桐生市が保護費を当月内に全額支給していなかったのは生活保護法に違反し、仮に一度支給した保護費を市が預かっていたという荒唐無稽な主張を尊重するとしても、それは地方自治法違反であると断言している。

 桐生市で過去、生活保護課に理不尽に尊厳を傷つけられ「あんな目に遭うくらいなら死んだ方がマシ」と苦しい生活に耐えている人、心身ともにボロボロにされた人、保護の廃止や報復が怖くて声を潜めている人たちには、これまで何も知らずに申し訳なかったと思う。その間に、亡くなってしまった方もいらっしゃると思うと心が痛む。桐生市に関するご相談は『つくろい東京ファンド』にお問い合わせください。(https://tsukuroi.tokyo/information/)


小林美穂子(こばやしみほこ)1968年生まれ、『一般社団法人つくろい東京ファンド』のボランティア・スタッフ。路上での生活から支援を受けてアパート暮らしになった人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネイター。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで働き、通訳職、上海での学生生活を経てから生活困窮者支援の活動を始めた。『コロナ禍の東京を駆ける』(岩波書店/共著)『家なき人のとなりで見る社会』(岩波書店)を出版。