寝られないぐらい、しんどくなる
本作で熱き戦いは、心震えるクライマックスへ。シリーズ最終章と謳われている。クランクアップはどのように迎えたのだろう?
「日没直前のギリギリまで撮影していて。僕は最後のシーンのことに必死で“どうしようかな”とずっと考えていたかな。その後、鎧を脱ごうとしたら、スタッフの女の子に“1枚だけ一緒に写真を撮ってほしい”と言われて。そのときに初めて“あ、これを脱いだらもう二度と着ないんだな”と思った。何年も一緒にやったからね。もう何年も。なかなかこんなに長い間ひとつの役、特徴のある役をやることってないですから。やっぱりちょっと苦しかったですよね。もう(王騎に)なれないわけだから」
しかしながら、作品の中で王騎は生き続ける。
「そうなんですけど。長いことやってくるとある種、役と自分ってダブってくるんですよ。大変な仕事であるほど。その状態に二度となれないっていうことに、ものすごく寂しくなる。寝られないぐらい、しんどくなる。もう永遠の別れなので」
今でもふと、王騎が自分の中に蘇ってくるような感覚はあるのだろうか?
「どうなんでしょうね。自分の中にいるかと聞かれると、ちょっとわからないですね。やっぱり身体もずいぶん変わっちゃってるし。あの体重、フォルム、鎧……いくつもトリガーがあるから。それらによって初めてスイッチが入るんですよね」
だから今は、王騎はすごく淡い感じなのだという。
「でも、そうじゃなきゃいけないんです。今でも濃いと、抜けられていないっていうことなので、それは逆によくない。クランクアップから時間が流れ、だんだんちょっとずつ心が整理されていく。僕がラッキーだったのは、たまたま次に『沈黙の艦隊』をやったこと。まったく違う水の中の世界に行かなきゃいけなかったから(笑)。そうやって無理やりにでも切り替えなきゃいけないことは、助けになるんですよ。そうじゃないと、ずっとそこにいたくなっちゃうから」