ある料理、ある酒を口にするとき、将又(はたまた)、ある店であのメニューを頼むとき、ふと思い出してしまう人―。料理やお酒をきっかけに引き出されるあの日、あの人を描く。グルメじゃないけど、僕にとっての忘れられない味は……。
* * *
SNSの数少ない良いところは「死にたい」とつぶやくと「わたしも」と返ってくるところだと思う。
ずいぶん前に、僕はそのようなことをつぶやいたことがあった。
そのとき、「わたしも」と返事をくれた人は、イラストレーターを生業(なりわい)にしている女性だった。
彼女が取り沙汰されていたすべてを知っているわけではないので、言われていたどれもが言われなきことなのかどうか判断できないが、彼女が死にたいほど悩んでいたことは事実だ。
ジャンボモナカを食べながら
その日から彼女と文通のようなメッセージを交わすようになった。
あるとき、彼女から〈電話で話したい〉とメッセージが届く。
「もしもし……」
電話口の彼女はゴソゴソモゴモゴしながらそう言った。
「なにか食べてるの?」と僕が訊くと、「バレた。チョコモナカジャンボ」と白状する。「バニラに挟まってるチョコが、パリパリで美味しいんだよね」と彼女はことのほか上機嫌だった。
ベッドに寝転んでいた僕は起き上がって、パーカーを着て部屋を出る。「もしもし」と返しながらエレベーターに乗って、一階に降りる。
そこから近くのローソンまで歩いて、アイスのコーナーで、チョコモナカジャンボを見つけて、レジまで持っていく。会計を済ませている間、彼女はケタケタと笑っていた。
部屋のベッドに戻り、チョコモナカジャンボをパリパリ食べながら、「久しぶりに食べた」と言った。
「ね~、初めての電話なんですけどー」と言う彼女もまだ、ゴソゴソモゴモゴとチョコモナカジャンボを食べながらの抗議。「で、どうしたんだっけ?」ととぼけながら尋ねると、彼女は最近あった落ち込んだ話を一から順に丁寧に話し始めた。
「それは大変だ……」と、僕はモゴモゴ答える。
「ね~、ちゃんと聞いてる?」と、彼女は笑っていた。