でも、程なくして、お互いちょっとシリアスに話し込んでしまう。
彼女は、一日に「死ね」「消えろ」と十通以上のメッセージが届くことを教えてくれた。僕は電話番号が漏洩して、いたずら電話が延々かかってきた時期があったと伝えた。
少しの静寂が訪れて、それをかき消すように彼女が言う。
「わたしさ、有名になりたかったなぁ……」
「有名になってどうするの?」と僕が訊く。
「そこから見える景色が見たかったかも……」
その後、いまは誰にも会いたくないけどね、と付け加えた。
「イラストレーターとして、もっといろいろなことがしたかった」と言う彼女に「これからもっといろいろできるよ」と返すと、「そうかなあ。うーん」とごまかされた。
彼女がフッとこの世から消えてしまったのは、その電話から数日後。本当にすぐのことだった。
彼女に誹謗中傷を繰り返していたアカウント群は、彼女が亡くなった夜に、その多くが消えてなくなる。きっとまた彼らは反省もなく、次の標的を見つけ、同じことを繰り返す気がする。
正直、彼女は傍(はた)から見れば生前十分に売れていた。活躍の場を広げていくチャンスを既に掴んでいるように見えた。でも、彼女の志は僕などが思うよりも、もっともっと高かったのだろう。
亡くなった後も、美術系の雑誌や女性ファッション誌で、彼女のイラストレーションは何度も紹介された。某有名クリエイターが、作品の多くを買い取ったということが記事になったときは、本当に驚いた。
深夜のコンビニで、彼女のイラストレーションがカラーで数ページにわたって特集された雑誌を立ち読みしたとき、嬉しさと哀しさがぐちゃぐちゃになって込み上げてきた。
僕はまだ、さよならが言えていない別れに実感を持てずにいる。