こうした地勢的条件が勝浦に涼しさをもたらしているということだ。このため観測史上、勝浦市の最高気温は100年前の1924年8月23日の34.9度となっている。確かに猛暑日(35度以上)はゼロである。
ちなみに、この5年間の最高気温の月平均値(8月)を東京と勝浦で比較すると以下のようになる。
ただし、快適な気候も人口減を食い止めることはできていない。千葉県で市として最小人口の勝浦市の人口は、この5年間だけを見ても減り続けている。令和元年(2019年)の1万7324人以降、毎年減り続け、令和5年(2023年)は1万5761人まで落ち込んだ(10月1日現在)。
さまざまなメディアが「涼しい街・勝浦」を報じたことから、勝浦市によると2022年7月の移住・定住相談件数は前月の約10倍に増えたとのことだが、必ずしもその後の実績にはつながっていないようだ。
現地ツアーなどのイベントを増やしていく
総務省の人口移動報告の結果(日本人)を見ると2022年は77人、2023年は144人の転出超過となっている。この点を勝浦市はどう受け止めているのか。
「移住相談や空き家バンクの問い合わせが増えています。今は移住政策の種まき期だと思っています。これまでは東京でのイベントに参加するだけでしたが、今後は現地ツアーをはじめ勝浦市独自のイベントを増やしていきたいですね。そうするなかで地元の方との交流を深め、実績を積み上げていきたいと思っています」(企画課移住・定住支援係)
涼しさだけでなく、豊かな自然を生かした観光と食文化、400年以上続く朝市などの歴史、そしていい意味での田舎感が残る勝浦市が、今後どう変貌していくのだろうか。
山田 稔(やまだ みのる)Minoru Yamada
ジャーナリスト
1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。