死を目の当たりにして死生観が激変
村井さんは退院から2週間後に県内の別の病院に転院し、心臓弁膜症において日本一の名医による手術を受けた。
「開胸手術だったので、術後はそれなりに痛みもありました。それなのに翌日から歩くようにと指導され、スパルタなリハビリはキツかったですね」
厳しい入院期間を経て退院するころ、村井さんは今度は“怒り”に燃えていたという。
「入院中にそれまでの人生を振り返り、自分のことは後回しで家族優先の生活を送り、無理を重ねてきたことに改めて気づいたんです。『なぜ、ここまで無理をさせたのか』という周囲への怒りがすさまじかったですね。 夫と息子たちにもその怒りは伝わったようで、食事の後片づけをしたり、買い物の際に重い荷物を持ってくれたりと、私の負担を減らすような行動をとってくれるようになりました」
身体のつらさは時間とともに和らいでいったものの、しばらくの間は精神的なダメージが続いたという。
「手術後の1年くらいは、自分が死にかけたという意識がやけに強くなり、怖くなることがありました。実際、心臓病を患った人の5年生存率は50%くらいですから。そうした事実を知れば知るほど恐怖を感じました」
村井さんは以前から不眠症で診療を受けていたメンタルクリニックを利用したり、SNSを通じて同じ病気の人たちとつながったりすることで精神的に安定していった。その一方で、死生観には大きな変化が見られたという。
「術後1年半を過ぎたころ、兄が亡くなったんです。兄は狭心症を患っており、糖尿病や高血圧の持病もありましたが、あまりにも突然すぎる死でした。兄の無念さを思うと、私はもうちょっと生きなければと。
もうちょっと本や原稿を書きたいし、きれいな景色も見たいし、犬も飼いたい。家族のために頑張ったとしても、死んでしまったら元も子もないですから。兄の死に直面したことで、人生に活が入ったように思います」