生まれたときから聴覚に障害がある子どもの割合は約1000人に1人。親の9割以上は健聴者で、すぐには障害を受容できない人も多いので、親の相談に乗ることからスタート。子どもの成長に合わせて言葉をどう教えていくか、独自に開発した教材を使ってサポートしている。

「聞こえない=手話」ではない

 日本ではドラマの影響もあり、難聴者は手話を使うイメージがあるが、実は手話を使う人は2割ほど。聞こえ方にはばらつきがあるので、補聴器や人工内耳を使い、補助的に口を読む人も多いのだという。

「“聞こえないイコール手話”というわけじゃないし、普通に口を見せて話してくれるだけでも助かります。コロナで急にみんながマスクになったときは、ものすごくしんどかったです。筆談だと3~4倍時間がかかるのでストレスでしたね

 聴覚障害について知ってもらうため、SNSでの発信も積極的に行っている。YouTube「デフサポちゃんねる」では、日常生活での困り事や育児の様子などをありのままに伝え、再生回数は1億回を超えている。

 今年7月には、これまでの半生を書いた書籍『耳が聞こえなくたって 聴力0の世界で見つけた私らしい生き方』を上梓した。読者から「自分も言い訳せずにチャレンジしてみようと思った」など、たくさんのメッセージが届いているそうだ。

 牧野さんのチャレンジも、これで終わりではない。夫の仕事の都合で1年半前に家族で渡米。デフサポの仕事はリモートでこなしながら、テキサス州で暮らしている。

「難聴関係の療育とかアメリカのほうが進んでいるので、現場を知りたいという思いもありました。でも、英語は口を読むのが難しくて全然話せないまま行ったので、すごいストレスかなと思ってたんですけど、アメリカのほうがみんなマスクしてない分、表情が見えて雰囲気でわかるので解放感がありましたね。

 いろんな人種がいるから英語が話せなくても寛容で、音声文字認識を使ってテキストでやりとりしてくれたりするので助かります。でも、みんながしゃべっていることがわからないのが嫌なので、時間がかかっても英語が話せるようになりたいです」

 アメリカでさらにパワーアップして、日本に帰って来る日が待ち遠しい。

牧野友香子著『耳が聞こえなくたって 聴力0の世界で見つけた私らしい生き方(KADOKAWA)税込み1650円 ※記事内の画像をクリックするとamazonのページにジャンプします
【写真】第一志望のソニーに入社した当時の牧野友香子さん

取材・文/萩原絹代