初めて見たビデオでその魅力の虜になる。たちまち宝塚にハマっていった。
「元宝塚トップスター・剣幸さんの舞台で、もう衝撃でした。バウホールに行っては、宝塚を見まくりましたね。おかげで『都さんの登場人物は男前だ』って言われます(笑)」
落語と子育ての両立は「修業よりもしんどかった」
女性初の険しい道を果敢に切り開いてきた露の都さん。私生活もまた波瀾万丈だ。25歳で結婚し、2人の子どもに恵まれるも離婚。
39歳のときに4児の父である会社員の男性と再婚し、実子と合わせて6人の子どもたちを育てている。落語と家庭の両立は苦労もあったのでは?
「やっぱりものすごく大変でした。落語の修業よりもしんどかったです。でもやらなければしょうがない。両立なんて、そんないい言葉ではなかった。もう必死ですよね」
子どもたちを分け隔てなく育てようと心を尽くした。ただ時には、思いが空回りすることもあったと話す。
「例えば、お造りを晩ごはんのおかずにしたときのこと。他の子たちはマグロと白身にしたけれど、実の娘はマグロしか食べられなかったからマグロだけにしたら、『なんであの子だけ』と言われたり。そんな日常の繰り返しで、子どもたちに教えられ、少しずつ修正していきました」
今は子どもたちもそれぞれ家庭を持ち、露の都さんは9人の孫のおばあちゃんでもある。
「みんな本当に仲良しで、年に1回は家に集まります。これはお父さんじゃなくて、私の力。それはもう声を大にして言ってます(笑)」
現在、女性落語家は東西合わせて約50人。露の都さんの6人の弟子もみな女性で、上方を中心に活躍している。
「今となっては男性の落語家より女性のほうがお客を呼べたりする。やっぱりそれはすごいことですよね」
ただいくら増えたとはいえ、女性の落語家はまだまだ少なく、全体の1割に満たないのが実情だ。女性の進出が伸び悩む理由は何なのだろう。
「今でも女性だからと色眼鏡で見るところが多いような気がします。でも女性ってパワフルだし、まじめで一生懸命で、いいものを持ってる人はいっぱいいる。だから女性でもっと活躍する人が出てきたら変わると思うけど……」
その先頭に立ち、後進に背中を見せる。彼女を突き動かすのは、落語が好き、というシンプルな思い。
「やっぱり私は登場人物を演じるのが好きなんですよね。お客様と息がうまくハマって、みなさんが喜んでくださると、もうとても幸せです。ただお客様も毎回違うので、1回1回気を抜くことはできません。毎回“今日はどんなお客様だろう?”って思う、その緊張感も楽しくて」
落語の魅力に取り憑かれて50年。この大きな節目を経て、これから何を目指していくのか、現在の思いを聞いた。
「子育てしていたときは日々の忙しさもあって、落語をやり切れたとは言えない気がします。だからこそこれからは落語と四つに組んでやり切りたい。露の都落語会があるというだけで、お客様がわーっと寄ってくる、そんなふうになれたらと……。やっぱり努力に勝るものはない。
諦めないで、やろうという思いがあれば大丈夫。それはよくわかってる。この年になったら人生もう山を下りるだけと言われるけれど、私はそんなつもりは全然なくて。“これからも私は登り続けるで!”って思っているんです」
取材・文/小野寺悦子