「神よ、一体何が起こったというのですか?」

 前述の通り、事故発生直後、ダイアナ妃は生きていた。現場に駆け付けた消防士がダイアナ妃にはまだ意識があったとし、彼女がそこで発した言葉を証言している。

「神よ、一体何が起こったというのですか?-“My God,what's happened?”-」

 これがダイアナ妃の最期の言葉となった。

 チャールズ皇太子(当時)や「ある組織」による脅威を感じつつも、このような形で人生の終わりを迎えるとは想像もしていなかったのか。それとも単に自分の身に何が起こったのか理解できなかったのか。いずれにせよ、ダイアナ妃が混乱と絶望のなかで非業の死を遂げたことは事実だ。

「事故のあと影がなにもない」”沈黙の幕を引く”アルマ橋

チャールズ皇太子(当時)と東京でパレードを行ったダイアナ妃(1986年)
チャールズ皇太子(当時)と東京でパレードを行ったダイアナ妃(1986年)
【写真】「このトンネルでなければ助かった」事故が起きたパリのアルマ橋トンネル

 ダイアナ妃の命日を前に、筆者は彼女が非業の死を遂げたパリのアルマ橋トンネルを訪れた。アルマ橋の前後には似たようなトンネルがいくつか存在するが、あの日の悲劇を刻んだ柱が内部に立ち並ぶのはこの橋だけだ。

 筆者が乗車したタクシーのドライバーは「こんな短くて、柱があるトンネルに時速200キロで突っ込むなんて…。アルマ橋でなければ(他の前後のトンネルであれば)ダイアナ妃は命を落とすことはなかった」と語った。

「なにも・・・(事故の)あと影がなにもない。」と呟き、メルセデス・ベンツ・S280が激突したという柱の位置を指差し「ここがその場所だ」とため息をついた。

「これだけでもう何も(事故の痕跡を)残していない」「事故などなかったようだ」と静かに繰り返した。