そしてそもそもこのルール自体、選管委員の片山さつき元地方創生大臣によると「お金がかからない総裁選にする」ためのもの。政治とカネの問題で批判を浴びた中で、巨額の出費は控えようという申し合わせです。
高市氏の費用をざっと試算すると、郵送費7,700万円(党員105万5,389人×郵便区内特別73円)+印刷費300万円+DM代行費で、党員全員に送付していたとしたら約1億円に迫る途方もない額です(ただし、高市事務所によると郵送数は約30万)。
そして公職選挙法なら罰則があって監督官庁が判断しますが、総裁選は身内で誰を選ぶかの選挙です。罰則は無いですが、ルール違反がひどいと思われたら最後、その候補は名前を書いてもらえず落選の憂き目を味わいます。
封筒の発送元を見ると自民党奈良県第二選挙区支部(高市支部長)、費用は彼女の持ち出しです。このリーフレットを発注した8月末は、彼女はまだ出馬しようともがいていた段階。選管は8月20日に総裁選の日程を決め、ルールに郵送禁止を入れるか議論していた頃でした。つまり高市氏は【1】出馬できるか分からない【2】大量に印刷しても郵送が禁止になりそう【3】ギリギリ郵送できても後から批判を浴びかねない、三重苦の中で数千万円の丁半ばくちを打ったのです。
その捨て身の一手が今のところ吉と出ているようです。ツキはツキを呼ぶ。投票用紙の往復ハガキが、3連休明けから各党員に届きます。「小泉氏・石破氏の勝負かと思いきや、高市氏が勢いあるらしい」と耳にして家に帰ったら、投票用紙が届いているわけです。党本部は来週9月24日午前中までの投函を呼びかけており、党員は1週間も無い中で誰かの候補の名前を書かねばなりません。もちろん他の8候補もスケジュールから計算し尽くして戦術を練っていますが、こうも都合よくは回らないものです。
今回の総裁選のルールでは、これでもかと高市氏に大きな追い風になった点が3つ。1点目は、日程が延びたこと。9月12日告示〜27日投開票(選挙戦は16日間)と、検討された9月20日投開票より1週間遅くなっていました。いくら高市氏が猛追しても、この日程では勢い及ばず、となっていたかもしれません。
2点目は、運動期間が延長されたこと。前回の総裁選(2021年)は13日間(9月17日告示〜29日投開票)でしたから3日間増え、追われる者より追う者には貴重な時間となりました。
3点目は討論会方式です。国民の前でしっかり議論できるスタイルにした。直接対決できるわけで、「守る側」より「攻める側」には見せ場となった。高市氏は舌鋒鋭く、野党相手の国会論戦では誠に頼もしい。しかしそれが諸刃の刃となり、味方である自民党内では時として摩擦を生じ、推薦人集めに苦戦する一因ともなった。しかしテレビや公開討論会では、「自民党内で政策の勝負をしていい」場である。まさに水を得た魚のように、討論を見る党員の心に刺さっているのです。
勝ち馬の高市氏に乗る、動きも?
他社の世論調査では、小泉氏や対抗馬の筆頭である石破氏が強い。しかし高市氏がトップを争う調査が一つ出た以上、今度は高市氏が徹底マークにあう番です。このリーフレット郵送についても他陣営の猛抗議を受け岸田文雄総理・渡海紀三朗政調会長・森山裕総務会長・小渕優子選対委員長が、17日、逢沢一郎選管委員長に追加の対応を検討するよう指示しました。18日には発送元の高市選挙事務所・木下剛志所長が奈良県庁で釈明するなど、連日ヒートアップしています。
最後の決戦投票では、シンパが少ない高市氏が逆に「乗りやすい」という観測が出ています。「勝ち馬」である小泉氏の回りはがっちり固まり、後から並んでも言葉は悪いですが“恩恵は少ない”。「新たな勝ち馬」になりかけている高市氏なら、今なら支持をアピールできる、というのです。
運命の投票日まであと1週間あまり、女性初の総理誕生の確率が日増しに高まっています。