一方のクラッシュ・ギャルズに対する、ファンの熱狂ぶりも尋常ではなかったという。ファンの女性が「婚姻届を持ってきた」「全裸で『抱いてください』と迫ってきた」との逸話も聞くが……。
「婚姻届は事実ではないと2人が言っていましたが、地方興行でのファンの暴走エピソードはたくさんあるそうです。大浴場の脱衣場に、ファンがずっと隠れていたなんてこともあったそうです」
当時のクラッシュ・ギャルズは、男女の枠を超えた超人気アイドルでもあった。
「試合の合間に芸能活動という超過密スケジュールの日々で、常に睡眠不足。そのため、いつも疲れていたので、会話も少なかったそうです」
全女の「25歳定年」「三禁」が選手の反骨精神に繋がった?
全女の場合、この試合日程が、今ではありえないほどのオーバーワークだったのだ。
「年間310日試合ということもあったほど。選手たちはケガをしても『休みたい』なんて言ったら、もう試合を組んでもらえなくなる。指が折れたら自分で添え木で補強し、あばら骨にヒビが入ったら水着の下に自転車のチューブを巻いて固定してリングに上がった選手もいたとか」
『極悪女王』にも登場する全女の経営陣・松永兄弟は「非情な仕掛けの天才」だったという。
「松永さんたちは、女子プロレスを何度もブームにしましたが、選手の勝敗にお金を賭ける悪魔の一面も持ち合わせていました。旬が過ぎたと判断した選手に対しては、非情なまでの肩たたき。“商品”は新しいほうがいいという経営理念に基づいていたのかもしれませんが、功労者のはずの選手はかわいそうですよね」
全女といえば、「25歳定年」「酒・男・煙草は禁止(三禁)」という掟があったことでも知られている。
「ダンプ選手やクラッシュの偉大な先輩であるビューティ・ペアのジャッキー佐藤さんでさえも、ビューティ解散後も人気はあったのに、1人ではピーク時ほど客を呼べなくなったなどの総合的な判断で、メインどころから遠ざけられてしまった。
でも、選手たちの反骨精神につながったことは否めないでしょう。引退後、『実は全女のときに彼氏がいました』と告白している選手やOGもいますから、三禁のほうは実際は大目に見られていたようです」
そして伊藤さんは、こうも続ける。
「私たちファンも、『女子プロレスとはそういうものだ。だから尊い。輝いている』と思ってしまっており、大好きな存在のはずなのに彼女たちの待遇改善にまでは声を上げられなかった。ただ、戦っている彼女たちが美しかったのは本当だし、勇気や愛する心など、彼女たちからたくさんの感情をもらったことも事実です」
大人になった今、伊藤さんは『極悪女王』をどのような感情で鑑賞したのだろうか。
「映像化されると初めて聞いたときは、『絶対に認めない!』と思いましたね。ダンプ選手は、太めの俳優が演じればなんとか近づくことはできる。でも、飛鳥さんと千種さんは、絶対に無理。特に、完璧な肉体が最大のセールスポイントだった飛鳥さんは『演じるのなら男性アスリートでないと務まらない』と。
実際、第1話では剛力さんや唐田さんを見て『やはり普通の俳優さんは細い。プロレスラーの役は無理だ』と思いました。それが、回を重ねるごとに、実際に身体ができあがっていくんですよね。まさに、新人レスラーが、お金が取れるスターレスラーになっていくさまを見せてくれるんです」