上皇ご夫妻は歴史の生き証人

 戦前、戦中、戦後、そして、現在に至るまで、日本が激動した時代を生き抜いてきた上皇ご夫妻は、優れた「歴史の生き証人」でもある。12月23日の誕生日で91歳となる上皇さまは特にその思いが強い。

 昭和天皇の長男として生まれ、1世紀近くもの間、先の大戦から平和な日本までを見てこられただけに、上皇さまが語る体験に裏打ちされた言葉の一つひとつは、ずっしりと重く、私たちの心の奥底まで響く。2019年2月24日、退位を目前に控えた中で政府主催の「天皇陛下ご在位30年記念式典」が開催された。式典で、上皇さまは平和への熱い思いを次のように語っている。

「平成の30年間、日本は国民の平和を希求する強い意志に支えられ、近現代において初めて戦争を経験せぬ時代を持ちました」

 明治時代から始まり、大正、そして昭和の20年まで、日本人は悲惨な戦争を経験した。その後、昭和の40数年間と平成時代、平和な社会を国民は築き上げてきた。丸々、平和だった時代は、上皇さまの言葉どおり、まさに「平成」だけなのだ。

 これから先、令和、そしてその次の時代へと平和な日本が長く続いていくことを上皇ご夫妻は強く願っている。ウクライナで続くロシアの侵攻や中東地域での戦火拡大など、世界では、きな臭い日常が絶えることがない。こうした状況だからこそ、佳子さまたち若い世代が、肉親らから戦争体験を受け継ぐことは特に大切なことだと思う。

《お怪我前の上皇后さまは、陛下との朝夕のご散策で、お庭に咲く草花や木々の移り変わりを楽しまれ、御用地に飛来する鳥や昆虫に目を留めていらっしゃった、とお供した者から聞いています。身近な自然について、陛下とお話になる時間を大切にされ、楽しんでおいでなのではと感じています》

 10月20日、上皇職はこのように発表した。美智子さまが回復し、また、ご夫妻で赤坂御用地を散策できるような穏やかな日常が早く戻ってきてほしいと、佳子さまだけでなく、多くの国民もそう願ってやまない。元気になった祖母や祖父に会い、戦争体験に限らず、直接、いろいろな話を聞くことが佳子さまや悠仁さま、そして、愛子さまにとって、得難い体験となるはずである。

<文/江森敬治>

えもり・けいじ 1956年生まれ。1980年、毎日新聞社に入社。社会部宮内庁担当記者、編集委員などを経て退社後、現在はジャーナリスト。著書に『秋篠宮』(小学館)、『美智子さまの気品』(主婦と生活社)など