実家や不動産しか遺産ナシ

 遺産が不動産のみで預貯金はなし、という場合も、その不動産をどう分けるかが問題になる。

相続人が誰も実家に住む予定がないのなら、共同名義で相続して、後日売却してそのお金を分け合えばOK。困るのは、相続人のうちの誰かが実家に住みたい場合です」

 実家に住みたい側が、他の相続人に【実家の価値×相手の相続割合】に相当するお金を手持ち資金から払うという解決法もある。そのお金を持っていない場合は、分割払いにする、あるいは共有名義で相続して、住む側が住まない相続人に家賃を払う、という手もある。

「ただ、共有名義で所有し続けるのは、自分の子どもの代など、次の相続が発生した段階で再度もめる可能性が。できれば避けたい方法です」

あらゆるトラブルの予防策となる遺言書

 財産が少ないからこそ起こりうる相続問題。なんとか防ぐ方法はないのだろうか?

「おすすめは、親に遺言書を書いてもらうことです。これで多くのトラブルを防ぐことができます」

 遺言書は、誰にどの財産を渡すか指定することができ、原則としてその内容は守られる。法定相続人以外の人を指定することもできるので、介護負担の実績を踏まえ、“嫁に〇割を相続させる”と書いてもらうことも可能だ。

 こうした遺言書がない場合、民法が示す割合(法定相続分)を基準に、遺産をどう分けるか相続人同士が話し合い、全員が合意しないといけなくなる。この話し合いでいわゆる“争族”トラブルに発展し、家庭裁判所での調停や審判に発展することもある。

「遺言書にはメッセージを書き添えることが可能なので、なぜその配分にしたかという理由や思いを書いてもらうのもいいですね。例えば自宅とわずかな農地しか財産がなく、誰か1人が相続する場合は、『土地はまとめて田舎暮らしをしたがっていた長男に。代わりに預貯金は長女と次男に配分する』など、メッセージがあると他の相続人の納得が得られやすくなります」

 なお、一般的に使われている遺言書には自分で書く「自筆証書遺言」、公証役場で法律のスペシャリストに作ってもらう「公正証書遺言」の2種類がある。

「自筆証書遺言は、日付や自筆のサイン・押印がないなど書式を満たしていないと無効になったり、紛失してしまったりするリスクがあります。法務局が遺言書を保管する遺言書保管制度を利用してリスクを減らすか、あるいは数万円の手数料がかかりますが、公証役場で公正証書遺言を作ると安心です」

 ただし、遺言書があっても、“遺留分”という権利には注意が必要。亡くなった人の相続人のうち配偶者や親、子は、主張すれば法定相続分の半分を遺留分として受け取ることができるのだ。遺産相続の話をする際は、念頭に置いておきたいポイントだ。

「トラブル防止に有効な遺言書ですが、大事なのはいきなり遺言書を書くよう親に迫ったりしないことです。遺言書はあくまでも相続に関する話し合いの仕上げです。まずはどんな対策をすれば親自身が安心できるか、一緒に考えるのがいいですね」

 親の財産が少ないどころか多額の借金がある場合は、別の注意が必要だ。相続人は、なけなしの財産と借金を合わせて引き継ぐか、両方を手放す“相続放棄”の手続きをするか、どちらかを選ばなくてはならない。

相続放棄は、自分に相続権があることを知った日、例えば親が亡くなってから3か月以内に家庭裁判所で手続きをしなくてはいけません。この手続きをしないと親の借金を背負うことになります。なお、手続き前に亡くなった人の財産に少しでも手をつけると、相続放棄ができなくなるので気をつけて」