ヤンチャな娘に見せた意外な父の顔

食い入るようにモニターの映像を見つめ、時に手を動かしながらタイミングを計り、絶妙な間をはさみ、読んでいく窪田さん。「わかりやすく伝える」ことへの強いこだわりを持つ(撮影/矢島泰輔)
食い入るようにモニターの映像を見つめ、時に手を動かしながらタイミングを計り、絶妙な間をはさみ、読んでいく窪田さん。「わかりやすく伝える」ことへの強いこだわりを持つ(撮影/矢島泰輔)
【写真】「時代を感じる」電気シェーバーのCM収録で街頭インタビューをする窪田さん

 仕事人間の窪田さんだが、プライベートでは3人の子どもの父親でもある。家ではどんな「お父さん」なのか知りたくて、末っ子の愛さん(40)に聞くと、自分が結婚したときのエピソードを教えてくれた。

「兄と姉はまじめなのに、私だけ若いときは派手な格好をしていたんですよ。私の旦那は芯の通った男なんですけど、見た目がちょっといかつくて眉にピアスをしていて。父は結構、躾に厳しいイメージだったから、旦那を父に会わせるとき、すごく不安だったんです。

 で、彼が帰った後に、どうだったと聞いたら、父は『愛が選んだ人だから』と言ってくれて。それって、私のことを信頼してくれているってことじゃないですか。本当にうれしかったですね。ああ、自分の父が父でよかったとすごく思いました」

 現在は2児の母である愛さん。子どもを連れて水族館に行ったら展示物の解説の声が窪田さんだったり、電化製品を見に行ったらゲーム売り場のCMから窪田さんの声が流れてきたり。窪田さんが朗読した『杜子春』が娘のクラスの授業で偶然使われたこともある。

「うちの子どもたちも最初は驚いていましたが、あちこちで聞くので、今は『じじ(の声)じゃん』みたいな軽い感じです(笑)。

 最近、父は鼻の調子が悪いみたいで、実家に行くと録音を聞かされてノイズがどうとか言うけど、私には違いがわからない(笑)。そうやって家でも常に仕事のことを考えていますよ」

 これまで、1日に最高で8本の仕事をこなしたことがある。今でも複数の仕事を掛け持ちすることは多いが、窪田さんは意に介さない。

「仕事で緊張して、終わるとほぐれて、また緊張してほぐれて。切り替え、切り替えだから、もつんですよ。ずーっと緊張ばっかりだとダメだと思うけど」
『情熱大陸』の放送は1300回を超えたが、休んだのは1回だけだ。心筋梗塞で救急搬送され、カテーテル手術を受けたのだが、翌週には復帰した。

 特別な健康法があるのかと聞くと、窪田さんは「何もないんですよ。あるがまま」と言って笑う。

「風邪をひくこともありますよ。切れ味のいいカミソリみたいな繊細な声だと大変でしょうけど、僕の場合、鉈みたいなぶっとい声だから、そんなに気を使わなくても、なんとかなってきた。本当にあるがまま。ただ現場を楽しんでいるだけなんです」

 そこで言葉を切ると、少し遠くを見つめて、続ける。

「それでも、いつか読めなくなる日はくるんだろうなぁ。読めなくなったら何をしたらいいんだろうと、ふっと考えたりしますよ。でも、『窪田さん、もういいよ』って断られるまで、頑張ってみようと思っています」

 最後のセリフに迷いはなかった。

<取材・文/萩原絹代>

はぎわら・きぬよ 大学卒業後、週刊誌記者を経て、フリーライターに。社会問題などをテーマに雑誌に寄稿。集英社オンラインにてルポ「ひきこもりからの脱出」を連載中。著書に『死ぬまで一人』(講談社)がある。