という一方で、“話す”と“伝える”は、まったく別物だということも実感する。
「私はきちんと話したつもりで、息子も理解してくれたと思っても、実際には伝わっていなかったことが、ときどきあります。アンミカさんの『白は200色ある』という発言が、面白話としてよくピックアップされますが、まさにそれです。こちらが白と言っても、相手が違う白を想像していたら、会話がすれ違うのは当然です」
曖昧な言葉での指示はトラブルの原因
伝え方については、本書でも繰り返し触れられている。例えば、「ちゃんとしなさい」といった声かけは、NGワード。
「親が子どもに対して『ちゃんとしなさい』『しっかりしなさい』という声かけをすることがあると思いますが、いずれも具体的ではありません。発達障害の人にとっては、特に伝わりにくい言葉とされています。私たち大人も、曖昧な言葉での指示はトラブルの原因です」
コミュニケーションエラーを防ぐためには、どの状態が「ちゃんとする」なのか説明し相手の理解度を確認する必要がある。時間の解釈についても同様。家庭でよく耳にする「ゲームはあと10分で終わり」という声かけにも落とし穴が。
「10分ギリギリまでゲームをして、それから電源を切ればいいと考える人もいれば、10分後には後片づけまで終わった状態であるべきだと考える人もいます。どちらもその人にとっての正解です。親子で、認識をすり合わせることが重要です」
そこで赤平さんの家ではホワイトボードを活用。息子さんのその日の予定を時間とともに“見える化”して、本人の行動を促すようにしている。
発達障害の影響で「目からの情報が脳に伝わりやすい」傾向を持つ息子さんにとっては、話すよりも、見えたほうが認識しやすいのだ。
このように、本書では発達障害がある息子さんが、効率よく生活・学習するための具体例が紹介されている。しかし赤平さんいわく、「私の息子に効果があったことが、ほかの人にも当てはまるとは限りません」と注意を促す。
「発達障害は人によって症状も重症度もさまざま。ご家庭ごとに、本人に適した方法を見つけることが大事です」
赤平さん自身、息子さんを理解するために、いくつものトライ・アンド・エラーを重ねた。一つやって、うまくいかなかったと落ち込むのではなく、「これがダメなら、こっちをやってみよう」と、トライを続ける。
そして最も大切なことは、トライするための知識と情報の量を増やすこと。『インクルボックス』を始めた理由は、誰でもすぐに知見が手に入り、息子さんが大人になる前に社会の発達障害理解が進んでほしいためだという。
「睡眠は来世に預けました(笑)。私は趣味が息子ですから、今の生活に不満はないです。ただ、私の健康を心配してくれる友人から、『健康診断に行かなかったら二度と会わない』と強く言われてしまったので、明日10年以上ぶりに健康診断に行きます。私としては別に行かなくてもいいんですけど、診断書を送る約束になっているので、これは行かなきゃダメですね(笑)」
『たった3つのMBA戦略を使ったら発達障害の息子が麻布中学に合格した話。』(飛鳥新社・税込み1760円)
発達障害のわが子を麻布中学合格に導いた著者が、MBAで学んだ「3つの基本戦略」をもとに6年間かけて実践した「学校」「日常生活」「家庭学習」「中学受験」の“環境づくり”を初公開。具体的な勉強法や生活のルールづくり、伝え方までもわかりやすく解説。
取材・文/中村未来
あかひら・まさる 1978年、岩手県出身。2001年、テレビ東京入社。報道番組『速ホゥ!』メインキャスターをはじめ、バラエティー番組ナレーションやボクシング実況などを担当。2009年、退社しフリーアナウンサー・ナレーターとして『井上尚弥 世界戦』など担当。2017年、早稲田大学大学院商学研究科(MBA)修了。発達障害と高IQを持つ息子の支援のため起業し、発達障害の動画メディア『インクルボックス』を運営。学校や企業での講演も行っている。発達障害学習支援シニアサポーターなどの資格を保有。