曲がり角が来る前に曲がるほど“せっかち”

 昭和や平成中期までであれば、女優さんやモデル、女子アナなどキラキラしている人に対して、オンナ芸人が「モテるからって調子にのっている」と妬んでいるようにふるまったり、女性同士で「だから、結婚できないんだ」と非をあげつらうことで笑いが成立していました。しかし、ハラスメントNOの時代にこれをやれば、番組に批判が殺到することは目に見えています。こうなると、キラキラした存在だけれども、ハラスメントにならず、かつ人を傷つけない笑いを生み出せる人が求められます。

 ちさ子さんはキラキラ星出身でありながら、毒舌をウリにしていました。女性で毒舌役を引き受ける人は少ないので、テレビでの生存という意味で言うならアリです。しかし、女性の場合、上沼恵美子さんのようにレジェンドレベルに到達していないと「そういうおまえは何様だ、人にそんなこと言う権利はあるのか」と言われてしまいがち。しかし、ちさ子さんには“せっかち”という素晴らしいキャラがあったのです。

 せっかちというのは自分のことですから、どれだけ話しても人を傷つけることはありません。ちさ子さんがいろいろな番組で披露していたせっかちエピソードの1つに、曲がり角が来る前に曲がってしまうというものがありますが、その結果、壁にぶつかったり、骨折したりと痛い目にもあっています。毒舌キャラで反感を抱く人も、勝手に急いで勝手に痛い目に合うちさ子さんに、こりゃヤバいと笑ってしまうでしょう。

 もちろんコンプライアンス的にも問題ありませんから、テレビ局も安心してちさ子さんを使えるのではないでしょうか。毒舌のえぐみを、せっかちの斬新さが上回ったと言えるでしょう。

 そのせっかちさは分刻みのスケジュールでバイオリンに明け暮れたことが影響しているのでしょうが、家庭環境も無関係ではないでしょう。

 ちさ子さんは自分の家族もテレビに公開しています。ご存じの方も多いでしょうが、ちさ子さんにはダウン症のお姉さんがいます。2019年8月15日放送『直撃!シンソウ坂上』(フジテレビ系)に出演したちさ子さんは、亡くなったお母さんに「みっちゃん(筆者注:お姉さんのこと)の面倒を見るために生んだ」「みっちゃんがいなかったら、生んでないから」と言われたそうです。お母さんはそれほどお姉さんが心配だったということでしょうが、この言葉は子どもにとっては「自分のために生きてはいけない」と言われるに等しい部分があります。

 幸いにして、ちさ子さんはお姉さんの存在をバネにできる人だからよかったのですが、家族イコールみんな元気で仲良しという幻想に縛られて傷ついてきた人ほど、キラキラ星出身ながら、人に言えない苦労もしてきたであろうちさ子さんに共感を寄せたり、ちさ子さんもがんばっているんだからと勇気をもらっていると思うのです。