4 キツいことは自分たちも一緒にやる

 4次審査では、体力づくりとして1000メートルダッシュや腕立て伏せといった体力作りをします。“しごき”に見えないこともありませんが、1000メートルレースには佐藤勝利さんも参加し、2位になります。佐藤さんが走る必要はないと言えばない。しかし、「論より証拠」で、トップアイドルには体力が不可欠なこと、日ごろの鍛錬をうかがわせることになりました。

5 自分で考えられる人になってもらう

 松島聡さんは、候補生たちに自分からアドバイスをすることをせず、彼らが自分から質問してくるのを待ちます。実はこの指導方法、青山学院大学の陸上部を箱根駅伝常連校に育て上げた原晋監督と同じなのです。原監督の『「挫折」というチカラ』(マガジンハウス)によると、就任時の青山学院は、箱根駅伝は夢のまた夢というレベルで、原監督も選手にこれをやれ、あれをやれという昭和スタイルの指導法を取っていたそうです。

 しかし、この方法では選手のやる気が出ないことに気づいた原監督は、箱根駅伝から逆算して細かいスケジュールを立て、その目標が達成できないとしても叱ることはせず、「それで、おまえはどうしたい?」と本人の意志を確かめるところから始めたそうです。自分の目標を自分で決めて、それを達成するためにどうしたらいいかを一緒に考えてあげることで、自分で考えられる選手に育て上げたということでしょう。

 timeleszの3人は27~30歳と、会社員にたとえるならまだまだ若手のはず。その3人がここまでの指導力と広い視野を持っていることに私は驚きました。彼らの指導力のおかげでしょうか、候補生たちは見違えるようにうまくなっていったのでした。

 また、この番組を見て“事務所の伝統”のようなものも感じました。

 SUPER EIGHTの大倉忠義さんがふらりと遊びにきたり、山下智久さんやHey! Say! JUMPは候補生に快く衣装を貸してあげます。堂本光一さんと木村拓哉さんはわざわざレッスンを見て声をかけ、木村さんに至っては、全員分の高級弁当まで差し入れていました。タレントたちに責任があるわけではありませんが、性加害報道後、タレントたちは“事務所のいい話”をしづらくなっているのではと思いますが、今回の番組で、先輩が後輩の面倒を見るという、昭和から続く“事務所の伝統”を見た気がしたのでした。

木村拓哉が差し入れした『矢澤コンボ弁当』に喜ぶタイプロメンバー(タイプロ公式Xより)
木村拓哉が差し入れした『矢澤コンボ弁当』に喜ぶタイプロメンバー(タイプロ公式Xより)
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 加えて、オーディションの参加者に元ジュニアの候補生がいたのですが、彼らは歌やダンスがうまいことに加え、お行儀がとてもいい。上述した1000メートルダッシュの際、元ジュニアの候補生が「ジュニアはもっと長い距離を走って踊る」とさらっと明かしていましたが、仕込みが違うというか、下積みの重要性も思い知らされました。

 いやぁ、アイドルってすごい。それがタイプロをすべて見終えた率直な感想です。timeleszファンはもちろん、部下やお子さんとのコミュニケーションに悩むお父さんお母さんにも必見の番組として、おすすめしたいと思います。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」