出演決定後、やなせさんにまつわる偶然がいくつか重なったという。

「点と点がつながっていくような感覚があります。僕は大人になってから偶然、コロナ禍前ぐらいにアンパンマンと深く出会い直しました。コロナも僕の人生観を変えたひとつ。“逆転しない正義”を追い求めたやなせさんとの役を通した出会いは、運命を感じざるを得ませんでした」

嵩が恋心に気づく瞬間

 昭和10年。のぶは高等女学校5年生、嵩は中学5年生に。のぶは“女子も大志を抱きや”という父(加瀬亮)の言葉、嵩は“何のために生まれて、何をして生きるのか”という伯父(竹野内豊)の言葉がそれぞれ胸にあるが、将来の道はまだ見えない。さらに嵩は、祭りのパン食い競走での弟・千尋(中沢元紀)とのぶの姿に心が落ち着かない……。

「嵩も自分の中で恋だと気づくのに、明確ではない瞬間が多くて。ライクなのかラブなのか結構、右往左往するんですけど」

 嵩は、のぶのどんなところを好きになったと思う?

「のぶは、嵩にできない生き方を真っすぐしていて、ずーっと嵩の前を走っている。その道が光っているから、嵩もそこをたどって歩けていた人生。嵩が東京に初めて出たときに、ふとのぶちゃんを思ったり。自分の人生に今足りないものを確認し、理解したときに、初めてのぶのことを好きだと気づいたんじゃないのかな」

 のぶの外見や性格、そのどこかを切り取った“好き”ではないと語り、こう続ける。

「たぶん、人生ってひとりで生きるにはなかなか大変で。僕も人生の大変さを感じてはいるんですけど、やっぱり誰かと手をつないで歩いていかないといけない瞬間はたくさんあって。嵩にはその思いがずっとあるんですよね。母親(松嶋菜々子)の存在もそう。ずっと誰かと手をつなぎたいんだけど、それが叶わない人生だったし。千尋は横で肩を組んでくれるけど、でもそうじゃなくて。自分は誰かと手をつないで歩きたいんだって思いながら。

 でもさっき言ったとおり、のぶは“前”にいるから、気づけないっていうか。お互い人生経験を積んで、初めて横に並んだときに、“この人が大切な人なんだ”という物語だと思っています」

エモすぎる!朝ドラの思い出

 印象に残っている朝ドラについて聞いてみると、「やっぱり『なつぞら』('19年)が出てくるかな」と、懐かしむ。

「4人でのオーディションだったんですよ。僕は“キミスイ(『君の膵臓をたべたい』'17年)”のすぐ後くらいの段階で、19歳とか20歳。馬を世話するシーンをやったんですが、監督さんが自由にやらせてくださって、もうアドリブ合戦(笑)。僕は結構、オーディションを楽しめるタイプ。落ちたからどうこうじゃなくて。あのときの芝居は本当に面白かったし、楽しかったですね」

取材・文/池谷百合子