放送中のドラマ『釣りバカ日誌』(テレビ東京系)。新キャストの演技も好評だが、そもそもは漫画が原作。そこで、作画を担当する北見けんいち先生に、ドラマや映画に対する思い、釣りバカ誕生秘話、気になる今後の展開まで深掘りインタビューした。
意外にも釣りは好きではないという北見先生の好きなものとは?
「カメラが大好き。フジオ・プロに行く前は、写真店を経営していたんだよ。親にマンガ家になることを反対されていてね。でも、暗室の中で漫画をせっせと描いていた」
いっときはカメラの道で生きることも考えたが、22歳のときに、思い切って小学館に原稿を持ち込む。
「ちょうどそのころ、小学館では赤塚先生の『おそ松くん』の連載が決まっていてね。人が足りないから、とりあえずアシスタントに行ってみてはとすすめられて、23歳で弟子入りしたんだ。本当は手塚治虫先生のところに行きたかったんだけどね(笑い)」
実際に虫プロにも願書を出していて、フジオ・プロに入った直後に採用通知が届いたという。そんな運命のいたずらを、しみじみとこう語る。
「『鉄腕アトム』のアニメーターという枠だったし、もし、そっちに行っていたら自分で描いていることはないだろうね。運がよかったと思うよ」
フジオ・プロでの毎日は『釣りバカ』で繰り広げられる世界のように和やかで茶目っ気にあふれていたという。
「俺がいちばん年下で、ほかのみんなは30歳くらいなのに子どもみたいなくだらないことをしかけてくるんだ(笑い)。トイレに入っていると赤塚先生から水をかけられたり、シュークリームを買ってくると顔にくっつけられたりしてね(笑い)。不思議なことに、みんな満州からの引揚者で、無言の絆があった。兄弟みたいな感じだったな」
こんな“釣りもの”もあった。後の伴侶となる美知子さんとの出会いだ。
「フジオ・プロが入っていたビルの1階が喫茶店で、そこでカミさんがアルバイトしていたんだ。それで仲よくなってね。すぐに向こうの親が出てきて(笑い)結婚した。俺はまだアシスタントだったから、カミさんは宝くじを買ったようなもんだよね」
出会いが喫茶店というのは『釣りバカ』のハマちゃん夫妻と一緒。“みち子”という役名も奥さんが由来だそう。
「原作にもとから“みち子”とあったから、気を遣ってくれたんだと思う。カミさんは亭主のケツを叩いてヤル気を出させるタイプでね。しょっちゅうケンカしては俺が謝っていた(笑い)。この前、カミさんの七回忌だったけど、亡くして初めて“できた嫁”とわかったよ」
夫婦の写真をたくさん飾るなどハマちゃんと同じく愛妻家。ちなみに『釣りバカ』といえば夫婦の営みを「合体」と言い、文字で表すのがおなじみだけど、誰が発案したの?
「これも原作に『合体』と書いてあってね。どうも絵にするのがテレくさくて、文字でやっちゃうことにしたの」
作画の苦労をひとつ切り抜けるも、いまだ大変なのは、人が大勢出てくる場面だ。
「スーさんが年始の挨拶で社員全員を集めて話すシーンは“十三、コノヤロー”と言いながら描いているよ(笑い)」
北見先生も、やまさき先生もパソコンは使わない。そのぶん、字で相手の心情がわかるそう。
「字をいい加減に書いているところは眠くなったんだなとか(笑い)、筆圧が濃くなっているところは盛り上げたい部分だとか、ひと目でわかるよ」
現在『釣りバカ』は93巻まで出ている。今後の展開は?
「編集者が代わると中身も反映されるから、それによってなんだよね(笑い)。十三さんとあと5年は頑張ろうと話しているよ。巻数としてはひとまず100巻。年だし、行けるかわかんないけど(笑い)」
どんな質問にも、ユーモアを交えながら気さくに答えてくれる北見先生。温 かな人柄の理由を尋ねてみると、笑顔でこう話した。
「作品が、こうさせてくれているんだと思うよ」