若い世代については、「自分が傷つくのを怖がっていて人と話すことが苦手な印象」としたうえで、これから学ぶときに心得ておくべきことをアドバイス。
山川氏は、佐藤が映画やドラマの打ち上げで若い人に熱く語っているというエピソードを引き、その理由を尋ねた。
「打ち上げでは“お疲れさまでした”と乾杯して、和気あいあいと話して帰ることもできる。でも、人間の出会いというのは一期一会で、再びその人と一緒に仕事ができるかどうかわからない。もしかするとゆっくり話せる最後のチャンスになるかもしれないから、年上の責任として自分が言いたいことをちゃんと伝えたいんです」
ほかにも“若かった当時の自分に言いたいこと”“若者を見ていい部分と足りない部分をなんだと感じるか”などのテーマで、熱を帯びた講義が行われたという。60分の講義時間はあっという間に過ぎ、質疑応答が始まった。進路について悩む時期でもあり、就職についての質問が多く投げかけられた。
「仕事が自分に合っているかどうかは、どうやって判断すればいいでしょう?」
という質問には、励まして元気づけるようなメッセージを送った。
「自分に合うことというのは、この社会にはそんなにたくさんあることではない。少しでも合う部分があったら、それはラッキーだと思うべきでしょう。職業にはいろいろな側面があって、マイナスの部分だけ見ていたら、自分に合う仕事なんて見つかるわけがないと思う。1つでも合うと思えたら、それは本当に幸運なこと。そこを伸ばしていけるように努力したほうがいい」
具体的な質問もあった。舞台俳優を目指しているが両親に反対されているという女子学生に意見を求められたときは、終了の時間が迫っていた。
「誠意を持って説得するしかない」と話したが、しっかり答えられなかったことが気になっていたようだ。翌日になって、山川氏に佐藤からメールが送られてきた。
《あの女子学生に伝言してほしい。君が世界で最も大事な2人(編注:両親のこと)を説得できずして、目の前の観衆の心を動かすことなんてできないと思う。ちゃんと向き合って説得してほしい》
質疑応答は延長したが、予定していた80分ほどの時間では思いをすべて伝えることができなかったようだ。3月で客員教授の任期は切れてしまう。“ディープでホット”な特別講義がなくなってしまうのは惜しい気が。
「講義の終わりに学生に呼びかけたんです。“佐藤先生の授業、来年も聞きたいだろう?”と言うと、会場から割れんばかりの拍手が起こったんです。だから、その場で彼に“3年延長お願いしますね”と言うと、苦笑いしながら“じゃあ、また来年ね”と返してくれましたよ」(山川氏)