紅白歌合戦にも出場し、クイズ番組では“おバカ”キャラとして愛された演歌歌手は、何も語らず芸能界から去っていった。さまざまな憶測が流れたが、引退から初めてマスコミの取材に重い口を開いた――

 現在、福岡県内で飲食店を経営し、板前として腕を振るっている香田晋。それにしても、彼はどうして、芸能界から突如としていなくなってしまったのだろうか。その理由を3年間の沈黙を破って答えてくれた。

「わざわざ、東京から来てくださったわけですし、もう、ちゃんと話さないといけないですよね……。僕が気持ちのうえで、芸能活動を続けられなかったんですよ。ホント、精神面で追い込まれていたんです。精神科にも通っていましたから。バラエティー番組では明るく振る舞っていたけど、僕の心の中はズタズタで。十分な暮らしはさせてもらっていたけど、時間的な余裕がなくて何も楽しくなかった」

 当時、バラエティー番組で人気者になった香田は、グルメのレポートやトーク番組など、歌手以外の仕事が多くなっていった。

「バラエティー番組に出ているとき、"なんで、自分はここにいなくちゃいけないのかな"って思いながら座ってるんですよ。もう呼ばれないようにしようと思って、ワーッて無茶やってみるんだけど、それが逆にウケちゃって。そして、コンサートやロケで移動も多くなってくる。そうなると、やっぱり寂しくなっていくんですよ。そのうち、歌もなかなか思いどおりに歌えなくなってきてしまった。声が出ないというか、イメージどおりに歌えない。そうなると、トークでごまかしたり、演出でごまかしたりして逃げるようになった。どんどんと、精神的に追い詰められて、それで、芸能界から逃げ出したんです。ファンのみなさんに対して本当に申し訳ないと思っています。応援してくださった方々に、謝らないといけないですね。申し訳ないという気持ちは今でもあります。事務所に対してもレコード会社に対しても、大変迷惑をかけてしまいました」

 引退した翌月の’12年5月、本誌は神奈川県内に住んでいた香田を直撃している。そのときは質問に答えることなく、サングラスにヒゲという異様な姿だけが話題になった。

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「あのころは精神的に最悪でしたね。一番つらかったときです。そして、ほかの人と話すのが本当に怖かった。街に出れば気づかれないように、サングラスをしてヒゲを生やし、下を向いて歩いていました。だから、自分から芸能界を辞めた理由を説明することができなかったんです」

 香田は’09年に前妻と離婚。ふたりの子どもは彼が引き取り、育てていたはずだが……。

「子どもたちが向こう(前妻)のほうに行きたいっていうんで、今はあちらで暮らしています。彼女にも彼氏がいるので、"その人をお父さんと思って生活しなさい"と言って送り出しました。子どもたちが二十歳になるまで会うことはありません。それは、守らないといけないので。そりゃ、つらいですよ。気持ちの中では、いま何歳だなって、元気でやってるんだろうなって。二十歳になって子どもたちが会いに来てくれたとき、親父頑張ってるなって言われるよう、生きていきたいですよ」

 現在は離婚後に交際を始めた、11歳下の女性と再婚。香田が料理し、彼女が接客をして、ふたりで店を切り盛りしている。

「彼女はつらいときに僕を助けてくれた。本当に感謝しています。だって、芸能界を辞めてからは、ほとんど収入はなかった。我慢して我慢して生活してきました。もう、貯金なんてありませんよ(笑い)。大変ながらも、妻と支え合って生きてきたので、それが幸せなのかなあって。前を向くという気持ちにもなれたし、芸能活動で頑張れたことも今では自信になっています」

 お店をオープンしてすぐのころは、まだどこか腰が引けていたという。だが、最近は自らお店のビラを近隣に配るなど、積極的に営業活動している。そして、料理だけでなく歌手時代に培った腹式呼吸で健康な身体づくりを目指す教室も始めたという。

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香田が近隣に配っているというお店のチラシ。料理店のものには再婚した妻の写真が(左)。腹式呼吸の教室も始めた(右)

「腹式呼吸で内側から健康になってもらって、そして、カラオケの好きな方に対してはそれで、歌がうまくなってもらいたいなと。そういう、お手伝いはしていきたいなと思っていますよ。歌手としては、いろんな経験をしているので教えられることはたくさんあると思いますよ」

 精神的なダメージからは完全に立ち直ったようだ。ならば、芸能界に戻る気はあるのかと最後に聞いたら、彼は首を横に振りながら、こう話してくれた。

「今の僕は元・香田晋ですが、もう香田晋で商売するつもりはないですよ。芸能界の人とは全然、会ってないし連絡も取ってないですよ。辞めたときに電話番号を変えちゃいましたからね。もし、記者さんが芸能界の人に会って僕のこと聞かれたら、元気だったよって言っといてください」