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 上品な食事の所作と丁寧な言葉遣いが印象的だった。食生活ジャーナリストの岸朝子さんが、9月22日に心不全のため91歳で亡くなった。

「'93年に始まった『料理の鉄人』(フジテレビ系)で審査員を務めて有名になりました。“おいしゅうございました”という決めゼリフが人気でしたね。好みだけで点数をつける人もいる中、公平な視点で料理を見る岸さんは、料理人からも視聴者からも信頼されていました。料理への愛がありましたね」(テレビ局関係者)

 “料理記者歴40年”と紹介されていたとおり、'55年にこの道に入った。《料理の好きな家庭婦人求む》という告知を見て『主婦の友社』に入社。

 '68年には母校の恩師で“栄養学の母”と呼ばれる香川綾さんに招かれて女子栄養大学出版部に移る。月刊誌『栄養と料理』の編集長に就任し、食べ歩きや器の特集といったグルメブームを先取りした企画で部数を伸ばした。

 死生観をテーマにした『週刊女性』連載『生きるって死ぬって……』に昨年4月に登場したときは、こんな思いを語っていた。

《父はとても食事を大切にする人で、私も娘時代に“掃除、洗濯は人任せでいいが、料理は主婦が目を配らなければいけない”とさんざん言われてきました》

 岸さんは、'52年に4歳の長男を疫痢で亡くした。自身が栄養士の試験を受け、合格発表を見に行った日のことだったという。

《残る4人の子どもたちには“食は命”とやかましく言い聞かせ、安心できるものをおいしく食べさせてあげたい一心で家族のために食事を作り続けてきました。私は食べ物をおろそかにすることは人生をおろそかにすることにつながると思っています》

 岸さん自身は、好きなものを好きなように食べていた。

《私はのんきな性格ですから、いつ死ぬかはあんまり気にせず、日々の食事を楽しんでいます。やっぱりお肉料理が1番多いかしら。サーロインステーキ、天ぷらが大好き》

 '12年に出版された自身の著書『このまま100歳までおいしゅうございます』(東京書籍)では、このように語っている。

《人の一生を料理のフルコースにたとえれば、今はデザートをゆっくりというところ》

(食ジャーナリスト・享年91・9月22日逝去)