一ノ瀬文香、杉森茜
相合傘をするタレントの一之瀬文香さん(左)と女優の杉森茜さん(右)

   タレントの一ノ瀬文香さん(34)と、女優の杉森茜さん(28)が2年間の交際を経て、4月19日に結婚式を挙げる。国内では同性同士の結婚は認められていないが、「同性婚の法整備」を願う思いがある。

 レズビアンと公表しながら芸能活動を続ける2人は、一昨年2月に交際を始めた。お互いを理解し、結婚したいと思うようになったという。この気持ちは異性愛者も同性愛者も両性愛者も変わらない。

「日本では同性同士で『婚姻』することはできない。だから私たちは、結婚式を挙げることを『結婚』と言っている」(一ノ瀬さん)

 公表するのも意味があってのこと。杉森さんはこう話す。

「まずは『同性婚』という言葉をメジャーにすることが重要。仕事でも常に“レズビアンだ”と言って歩いている。同性婚が認められるようになれば、自分にもほかの人にもメリットがある」

 2年前、元宝塚歌劇団花組男役の東小雪さんと増原裕子さんが東京ディズニーシーで挙式したことは記憶に新しい。日本のディズニーリゾートで、同性同士の結婚式は初めてだった。

 同性婚の法制化は、アジア太平洋地域では昨年、ニュージーランドで認められただけ。ベトナムでは1月から同性同士の結婚の処罰規定がなくなったが、届け出はできない。

 日本では昨年6月、青森市で女性同士のカップルが婚姻届を出した。しかし、「両性の合意」を条件とする憲法を理由に受理されなかった。結婚式を挙げても2人の関係は法的には変化しない。では、恋人と何が違うのだろう。

「恋人とは違う次元。ともに将来を歩んでいくということ。友達に紹介するのが『彼女』か『妻』かでは、意味合いが違う」(一ノ瀬さん)

「死ぬまでお互いを見ることができる。自分がどうなっていくのか文ちゃんに見てもらえるし、自分も文ちゃんのことを見ていられる。人生のとらえ方が違う」(杉森さん)

 この感覚は、法律婚をせず、事実婚を選ぶ異性愛のカップルと似ている。ただ、異性愛カップルの場合、一定条件を満たせば夫婦とみなされる。結婚式後は新婚生活が待っているのかと思うと、生活は変わらない。一ノ瀬さんがルームシェアしている友人と一緒に3人で住む。2人きりで住むことにこだわっていない。

 同性愛者を含むセクシャルマイノリティーにも、結婚に関してはいろいろな考えがある。結婚したいと思う人もいれば、したくない人もいる。

「結婚が選択肢のひとつとしてあるのがいいと思う」(一ノ瀬さん)

 また、同性愛者でも子どもが欲しいという人もいる。養子を取ったり、体外受精で出産するといった方法がある。

「今は子どもが欲しいという気持ちがわかない」と一ノ瀬さんは述べるが、杉森さんは「私は将来、子どもが欲しい。養子にするか、精子バンクに頼るか」と話す。今後、話し合いが必要になる。

 セクシャルマイノリティーの人たちの中には、「家族になりたい」という気持ちをかなえるため、養子縁組するカップルもいる。

 養子縁組すれば、日常生活を送るには不便はなく、緊急時にパートナーの病室に入ることもできる。しかし法的には夫婦ではない。やり方によっては親子にもなり、兄弟姉妹にもなる。一ノ瀬さんと杉森さんは養子縁組しない。

「もし同性婚ができるようになったら、またややこしいでしょ。姉妹になりたいわけでもないですし」(一ノ瀬さん)

「養子縁組すれば社会的な関係は変わるけど、子どもになりたいわけじゃない。子どもみたいだけど(笑い)」(杉森さん)

 2人の関係を夫婦と証明する方法としては公正証書がある。ただ、法的に同性婚が認められていないため、どこまで効力があるかは不明だ。

「公正証書のほか、何かあった場合の緊急連絡先を書いたカードを財布に入れている。できる範囲のことはやる」(一ノ瀬さん)

 同性同士の結婚はさまざまな工夫をすることでなんとか成り立つようにアイデアをひねるしかないのが現状だ。

 一方、同性愛者の中には、同性愛者との結婚にこだわらない人たちもいる。結婚制度に合わせた「友達婚」だ。

 「友達婚」とは、例えば同性愛者と、同性愛者ということを理解した異性愛者が、合意のうえで家族のかたちを求めること。周囲に同性愛者であることを打ち明けていない人たちの中には、「結婚していないことで周囲に詮索されることを避けるため」とか、「ひとりでは寂しいので家族が欲しい」などの理由で結婚相手を求める人がいる。

 そうした「友達婚」の相手との出会いはインターネットがメーンだ。「友達婚」を求める出会い系サイトや結婚サイトがいくつもある。

《ゲイですが、友達婚を希望します。女性と付き合ったことはあります。子どもは欲しいのですが、相談して決めたいと思います》

《レズビアンです。結婚のことを考えたことはありませんでしたが、このまま一人で過ごしていくのも寂しいと思うようになりました》

 こうした書き込みが毎日のように更新されている。

 一ノ瀬さんと杉森さんの2人はこの「友達婚」も選択しなかった。2人とも隠す必要がないことが最大の理由だ。

「セクシャルマイノリティーにも結婚願望はある。しかし、わかってくれない。そんなマジョリティーの意識を変えるため、まずは知ってもらうこと」(一ノ瀬さん)

 同性婚の公表には親の理解が必要だ。杉森さんは弟の結婚式で一ノ瀬さんを親族に紹介、一定の理解を得ている。

「親がどう受け入れるかは慣れじゃないですか。親が納得するまで電話で話す。泣いたりして(笑い)。最初はいろいろ言われると思うけど、言い続けること」(杉森さん)

 ただ、意外にも2人は、「結婚イコール幸せではない」と口をそろえた。

「結婚は、幸せになることの選択肢のひとつ。もちろん、結婚式で誓い合い、周囲に“今後ともよろしく”と言うことで、2人の幸せ度は増すと思っていますが……」(一ノ瀬さん)

 もうすぐ2人は家族になる。

(ジャーナリスト 渋井哲也)

(プロフィール)

しぶい・てつや 1969年生まれ。『長野日報』の新聞記者を経てフリーに。生きづらさや自殺、ネット犯罪などをテーマに取材。著書に『自殺を防ぐためのいくつかの手がかり』(河出書房新社)や『明日、自殺しませんか』(幻冬舎文庫)など