女子目線の歴史観で人気の『乙女の日本史シリーズ』著者の堀江宏樹先生と、NHKにて人気コミック『離婚同居』がドラマ化され歴史にも明るい柏屋コッコ先生が、『花燃ゆ』を徹底検証。
堀江 正直なところ、コッコ先生は『花燃ゆ』、どんなふうにご覧になっています?
柏屋 ここまで女子目線な大河は見たことがなかったので、最初の印象は“驚き”でした。キャッチコピーの「幕末男子の育て方」含め、これは本当に大河ドラマなんだろうか? って(笑い)。
堀江 まさしく大河版『花より男子』(笑い)。とはいっても、後に結婚する小 田村伊之助(大沢たかお)を文さんの初恋相手として描くなど、ロマンスとしてうまく落とし込んでいる部分もある。
柏屋 それなのに、ここまで低空飛行なのは一体、何が原因なんでしょう?
堀江 僕は単純に群像劇としてわかりにくい部分だと思う。
柏屋 確かに誰が主人公なのかわからない! しかもイケメンがたくさんいるはずなのに、お気に入りのキャラがいないとなると、視聴者の興味も半減してしまいますよね。
堀江 『テニスの王子様』に代表されるように、イケメンが多数登場する作品は、キャラがしっかりできあがっていることが鉄則です。ところが、『花燃ゆ』のF4(松下村塾四天王)はみな同じような雰囲気……。
柏屋 久坂は眼鏡キャラとか、高杉は武器マニアとか(笑い)。こうなったらエロキャラとして劇団ひとりさん演じる伊藤博文に期待したい。
堀江 しかも主人公の文さんが、あまりにもニュートラルすぎるので、なおさら誰が主人公なのかわかりにくいという負のスパイラルに陥っている。
柏屋 私もマンガを描くときは、主人公を際立たせるように描くほうがやりやすい。最初からごちゃごちゃと人物が登場すると、つめ込みすぎになって流れが止まりがちになる。
堀江 いっそのこと「松陰の章」「久坂の章」「高杉の章」という具合に、完全に分けてしまえばよかったのに。各章を文さん視点で描き、章ごとに監督も代えて雰囲気も変えれば話題性も違ったと思う。
柏屋 やっぱり大河の主人公って、激動とか波乱の渦中にいる人じゃないと厳しい部分がありますよね。普通に結婚して夫を見守るだけなら朝ドラと変わらない。
堀江 『マッサン』に関していえば、エリーさんの死まで描かれていましたからね。エリーさんの人生が大河化していた(笑い)。
柏屋 昭和も立派な大河ドラマの範疇になりえる時代になってきたから、ネタ切れ感のある幕末や戦国時代にこだわらなくてもいいように思いますね。
堀江 どんな作風であれ、本丸として大河ドラマが君臨していればいいんです。われわれのような歴史コンテンツを作る人間、歴史ファン、時代劇ファン……、そういう人たちにとって、まさしく大河ドラマは源流となるような存在感を示し続けてほしいんですよ
ね。
柏屋 経済効果も馬鹿にならないでしょ。今年でいえば北陸新幹線が開業することがわかっていたわけだから、上越や金沢にゆかりのある人物のほうが適任だったんじゃないのかって思うんですよ。
堀江 大河ドラマを放映しているのが公共放送のNHKであることを考えれば、まったくそのとおり。視聴率が思うようにふるわなかったとしても、地場産業が盛り上がり地域の人が喜んでくれれば放送する意義が生まれるわけですから。そう考えると、大河応援団じゃないですが一般の人たちの意見を取り入れる機会があってもいいような。
柏屋 私は、やっぱり伊藤博文さんがいつハレンチなことをしでかすのか楽しみでしかたがない。というか、劇団ひとりさんが井上真央さんにセクハラをしてほしい(笑い)。
堀江 それが見たいだけじゃないですか(笑い)。でも、本丸として盛り上がらないといけないことを考えれば四の五の言っていられないと思う。思い切って、半年間限定の大河があってもいいと思うし、仮想の主人公を戦国時代に投げ込んでみるとか、時間帯を変えるとか、いろいろ実験してみたらどうだろう?
柏屋 50年以上続いているわけですから、ドンと構えていればいいんですよね。「こんなの大河じゃない!」って言われても、「大河ですけど何か?」って言い切る気概があってほしい。『花燃ゆ』はいちいちビビりすぎですよ。
堀江 そう考えると『笑点』(日本テレビ系)の安定感はすさまじいですね。やっていることは変わらないのに高視聴率を稼ぎ続ける……これぞ様式美!
柏屋 実験ができないなら、大いなるマンネリであり続けるのもひとつの作戦ですよね。 堀江 若い人や女性に迎合するからといって、そういう人たちが振り向くとは限らない。ベタな言い方ですが、よいものを作れば必ず話題になると思うんですよ。
柏屋 日本は少子高齢化の傾向にあるから、「若い客層を!」って、どの業界も考えると思う。でも、年齢を重ねてきた方も増え続けているわけで、そういう方々って死を意識し始めたときに、はたして歴史書や資料本を読むのかなって思うんです。きっと家族のアルバムを見るんじゃないのかなって。
堀江 なるほど〜。朝ドラがヒットし続ける理由がわかった気がする……。年をとっていく視聴者の気持ちを酌み取ることも、ますます大事になってきますね。
柏屋 『花燃ゆ』は、最終的に井上真央さんと大沢たかおさんが結ばれるという着地点が見えているので、“激動を駆け抜けて結ばれた2人”という王道展 開いかんによっては、多くの視聴者を魅了する可能性もある。
堀江 いじらしい〜! 王道ゆえの胸キュン!(笑い) 幕末版『花より男子』と思いきや、実は幕末版『風と共に去りぬ』だった、みたいな。
柏屋 まだ半年以上、放送があるんですから、ま・さ・かの展開もありうる(笑い)。
堀江 『花燃ゆ』をあきらめるには時期尚早ですね!