目次
Page 1
ー 数々の賞を手にしてきた映画監督・白石和彌
Page 2
ー 月1本の映画鑑賞と作品の原点との出合い
Page 3
ー 夢を叶えるための生活は困窮を極めて…
Page 4
ー 心を揺らした、師・若松孝二監督の言葉
Page 5
ー 助監督から監督へ。そして師匠との別れ
Page 6
ー 結果を出すため、もがき苦しんだその先に ー バイオレンスアクションを突き詰めて
Page 7
ー 救われない声なき人の声を掬い上げたい

 厳しい残暑が続く9月の初旬。今もっとも多忙を極める映画監督・白石和彌(49)に会うために東京・銀座にある東映本社ビルを訪ねた。この日の白石は11月1日に公開される最新作『十一人の賊軍』の取材日。朝から新聞や雑誌、テレビや配信メディアまで、7つの取材に答えていた。

数々の賞を手にしてきた映画監督・白石和彌

『十一人の賊軍』の撮影現場。爆破の轟音と血しぶきが飛び交うオープンセットの中、鋭い視線でモニターをチェックしながら白石は、「ここに来る山道がワクワクした道に見える」
『十一人の賊軍』の撮影現場。爆破の轟音と血しぶきが飛び交うオープンセットの中、鋭い視線でモニターをチェックしながら白石は、「ここに来る山道がワクワクした道に見える」

 そして週刊女性がラストインタビュー。これまで数々の賞を手にしてきた映画監督は、やはりタフでなければ務まらない。今作は5月に公開された草なぎ剛主演の『碁盤斬り』に続く、今年2本目の時代劇。白石は今なぜ、時代劇にこだわるのか。話はそこから始まった。

「時代劇が撮りたいって『凶悪』('13年)のころから言ってきました。それから10年。ようやく撮ることができました。言霊ってあるんですよ」

 そう言って笑みを浮かべる。トレードマークの帽子が実によく似合う。

 これまで白石は『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』('16年)などの実録モノや『孤狼の血』シリーズのような血で血を洗うバイオレンスアクションを手がけてきた。

 思えば9月19日から配信がスタートし、日本のNetflixの週間TOP10では3週連続で1位を獲得。話題を呼んだ『極悪女王』でも1980年代を熱狂の渦に巻き込んだ女子プロレスラーの抗争劇を描き、衝撃を与えている。

 『極悪女王』は'80年代の女子プロレスブームを牽引した、“最凶のヒール”ダンプ松本の知られざる半生を描いた作品。当時、ダンプと抗争を繰り広げたレジェンドタッグ『クラッシュ・ギャルズ』をはじめ、そのころ全日本女子プロレスに所属していたレスラーたちが、ほぼ実名で登場する。

 それだけにダンプ役を演じたゆりやんレトリィバァをはじめ、長与千種役の唐田えりか、ライオネス飛鳥役の剛力彩芽たちは撮影の半年前から肉体改造とトレーニングに取り組み、リングシーンはほとんどスタントなしで演じきってみせた。

 プロレススーパーバイザーとして本作に参加した長与千種(59)は彼女たちを見て、

「彼女たちがリングに上がるたびに泣けてきちゃって。いろんなものを背負って、このドラマで何か変わりたい。殻を破りたい。そういう思いをひしひしと感じて感動しました」

 完成した作品を見て白石監督自身も、

「自分が死ぬ前に見たいと思う自作がこの『極悪女王』。

 ドキュメンタリーに近い俳優たちのプロレスを見ているだけで、きっと誰かの応援歌になると思う」

 と語る。実は白石監督は根っからのプロレス好きでもある。高校時代からの親友・長尾公史さん(50)は10代のころを振り返ってこう語る。

「よく一緒に札幌の中島体育館に、全日本プロレスを見に行きました。彼の贔屓はプロレス四天王の中でも川田利明とやや地味。無骨で泥くさいけれどやると決めたらやり通す。そんな姿が白石と似ているかもしれません」

 持ち前のバイタリティーで精力的に活動している白石和彌。それにしても柔和な笑顔のどこに、狂気をはらむバイオレンスのマグマが眠っているのか。