「パパ、ママ、ありがとう」
提案したのは、関わりの濃淡による3部構成の保護者会。最初は、主犯格の男子グループ。優秀な高校に合格した、学校でも親の前でも、"いい子"たち。
理恵は問いかける。
「もし茉奈が自殺を選んでいたら、殺人者になるんだよ。いじめは、人の生き死にに関わることなんだよ」
学も迫る。
「君らが起こしたトラブルを茉奈が止めに入ったのに、陰で悪口を言い、制服を踏んで靴に泥を入れる。それで、男と言えるのか!」
全員に話してもらった。
「反省しています。すみませんでした」
「大人が怒ると、こんなに怖いものだと初めて知った」
アキレる母親もいた。
「怒ってもらってありがとうございました。私は怒れないものですから」
2部は、黙認していた男子グループ。理恵が話した。
「ただ見ていただけで、何もしていないって思っているかもしれないけど、いじめを知っていて止めないのは共犯者になるってことよ」
ある母親が立ち上がる。
「本当にそのとおりです。本当にすみませんでした」
もちろん、納得していない親子もいた。だが1部、2部では8割方の親子にわかってもらえたと感じた。
問題は、茉奈の親友たちの女子グループ。この"親友"が、いじめの黒幕だった。シラを切り通しているグループなので、LINEとツイッターの画像を印刷して親に配り、動かぬ証拠を突きつけた。
「おまえ、いったい、何やってんだ!」
初めて事情を知った、ひとりの父親が殴りかかる勢いで娘に迫り、母は過呼吸になるほど苦しんでいた。
問題は香奈だった。
「茉奈は傷ついて1人でベッドに横になっている。どんな気持ちか、わかるか!」
「はあ?」
母親も娘同様、シラッとした態度を貫く。それは日本語と英語ほど、言葉が通じないやりとりだった。
すべてが終わった。
「パパ、ママ、ありがとう」
2人には、茉奈のこの言葉だけで十分だった。子どもを守るためには、他力本願ではなく、親自ら行動することが鍵となるのではないだろうか。
<プロフィール>
取材・文/黒川祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家。本件を初出した雑誌『新潮45』(新潮社)を中心に、家族問題、人物ルポなど執筆。近著に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)