小島慶子さんと西原理恵子さんと上海蟹を食べに行った。
毎年、上海蟹の旬の時季に、旧友の田中知二さんがみんなを連れて行ってくれる。
蟹を食べるというのは、蟹好きならばわかるだろうが、会話を楽しむどころではなくなる。もくもくと身を取り出してもくもくと食べる。
だから、女性と食べに行く場合はそうとうの仲でないとふさわしくない。焼肉以上の代物である。それが、小島さんともサイバラとも、ボクが元気だった頃から蟹を食べる仲だった。
サイバラとは昔、「恨ミシュラン」というグルメの連載を雑誌でしていたので、いたるところに食べに行った。まずいのもこの世のものとは思えない美味しいものも食べた。ボクの裏も表も何でも知っている旧友だ。サイバラは無類の蟹好きだ。
小島さんとも、もう20年前ぐらいから、ラジオ番組をご一緒していた。でも、局アナであったし、独立してからもタレントだし、エッセイストだし、眩しい存在だったが、神保町の上海蟹の有名店に二人で待ち合わせして、上海蟹を黙って食べて別れるという、何とも奇妙なこともできるお茶目な女性だった。
そんなボクにとって、蟹といえばこの二人、という二人を誘って蟹の忘年会だ。年末で、しかも忙しい二人のスケジュールを合わせるのは大変だと思うのだが、毎年、ピシッと決まる。こんなにスムーズに決まるのは、やっぱり何かあると思う。
いまでは片手が不自由で、上海蟹を食べるのは、一人ではできない。そこは蟹むきの天才のサイバラが、ボクの分をむいてくれる。いまお付き合いしている彼で慣れているそうだ。いい彼がいて、仕事も充実していて、サイバラの顔を見ていて、幸せなんだなあと実感する。おこがましいがよかったと思うのだ。その横で、小島さんがボクの世話を焼いてくれる。
小島さんも、ボクと一緒に働いていた頃に比べたら、顔が違う。本当にいろいろ悩んでいた頃に、横に座って喋っていたのに、ヘンな親父ギャグぐらいしかボクは飛ばせなかった。
けれど、いまは穏やかな顔をしている。
そんな二人が新刊を出した。
小島さんは漫画家のヤマザキマリさんとの共著『その「グローバル教育」で大丈夫?』という本。どこでも誰でも、どんな仕事をしていても、生きていける大人になってほしいというメッセージを込めて書いた本だと言っていた。これが小島さんの子育てにおいての願い。
「中1の長男と小4の次男は英語が達者になってきて、口論でもタジタジとさせられてしまうこともある。ほんとに悔しいの」
そう話す小島さんは、やっぱり昔からのお茶目で負けん気の強い女性で、思わず笑ってしまった。
お金をかけて、一流校に入れても、グローバル人材は育たない、海外に行かなくてもグローバル教育はできるとか、なかなか興味深い本だ。
この本のなかに「親である前に人間」、そんな言葉があったがボクもそんなことを思いながら子どもと接してきた。良くも悪くも、父親も、そんなものなのだ。
サイバラの本は『親子でがっちょり おかん飯』。料理研究家の枝元なおみとの「おかん飯」シリーズ、第2弾だ。枝元さんの料理はどれも美味しそうで、それが自分にもすぐ作れそうなメニューなところがよい。
みそ焼き豚もいりこナッツも冬瓜カレーも塩そばも、読んですぐつくってもらった。すぐできて、それが美味い。サイバラも言っていたけれど、冷蔵庫のなかの残りものをちょちょっとアレンジできるのがいい。
がっつり食べ盛りの子どもたちのためにも、お父さんの夜食にも、すぐつくれそうだ。
そういうサイバラも、料理がうまい。25年くらい前に、編集者とうちに取材前に迎えに来たとき、いちどホットドックかなんをつくってくれた覚えがある。また、最近ツイッターを見ていると、美味そうなものをよくつくっている。
くそ忙しいときに料理か、と懐かしくなる。ボクもくそ忙しいときに家族に朝ごはんをつくっていた。サイバラと同じかどうかわからないが、やっぱり家族につくったものを食べさせたい。
「美味しかった“あれ”、もう一回つくって」。“あれ”と言われるのが嬉しいと話すサイバラは、やっぱり、いい顔している。サイバラのから揚げは、高知のくじらの竜田揚の味付けだという。一度は食べてみたい。
「そんな料理上手なのに自分だけで本をださないの?」と聞いてみると、「私のはいつも冷蔵庫の余りものでつくるから……見栄えもよくないし」という答えが返ってきた。サイバラの子供たちが、がっつり食べて育った料理、間違いないだろうになあ。
あの数年のボクたちのグルメ取材は、かなりの肥やしになってるはずだ。まあ、それはさておき「おかん飯」は食いしん坊のサイバラ太鼓判のご飯ばかり、かなりいけてます。
見ての通りに、小島さんとサイバラはかなり違うタイプである。
その日、クリスマスプレゼントを渡したが、小島さんにはゆっくりできますようにと、アロマ・キャンドル。サイバラには、ボクが最近大好きなハム。そんな感じに違うのに、ボクは二人に同じ匂いを感じることがある。何かなあ、とこの原稿を書きながら考えていたが、二人にはそんじょそこらにはない、ガッツがある。
根性というのか、挫けても、挫けても、前を向ける。ときにはもうダメだというほど打ちのめされながらも、立ち上がる。だから、そんな二人から目が離せないし、大好きなのかもしれない。
〈筆者プロフィール〉
神足裕司(こうたり・ゆうじ) ●1957年8月10日、広島県広島市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代からライター活動を始め、1984年、渡辺和博との共著『金魂巻(キンコンカン)』がベストセラーに。コラムニストとして『恨ミシュラン』(週刊朝日)や『これは事件だ!』(週刊SPA!)などの人気連載を抱えながらテレビ、ラジオ、CM、映画など幅広い分野で活躍。2011年9月、重度くも膜下出血に倒れ、奇跡的に一命をとりとめる。現在、リハビリを続けながら執筆活動を再開。復帰後の著書に『一度、死んでみましたが』(集英社)、『父と息子の大闘病日記』(息子・祐太郎さんとの共著/扶桑社)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(妻・明子さんとの共著/主婦の友社)がある。Twitterアカウントは@kohtari