今年5月から始まったこの連載、2015年も押し詰まった今回が最終回。ということで、神足氏に順不同で2015年の10大ニュースを選んでもらった!

 今年は、政府のあり方や政治に関心を持った人も多かったのではないだろうか? 戦後70年、慰安婦問題、集団的自衛権、マイナンバー、オリンピック問題にイスラム国人質事件……今年のトピックスをあげていくと、そのときどきの安倍首相や政治家たちの発言やそれに意見する国民の声を思いだす。一方で、スポーツ界から明るいニュースもあった――。来年がいい年でありますように! そんな思いを込めながら、今年を振り返ってみた。

【1】ラグビーW杯イングランド大会で日本が歴史的な3勝

 9月、「ラグビーワールドカップ2015」で、24年間、W杯で勝ち星のなかった日本代表が初戦、世界ランキング3位の強豪・南アフリカ代表に劇的な逆転勝利を飾った。決勝リーグ進出は果たせなかったが、その後も2勝をあげ、歴史的な3勝をあげた。日本のスポーツ界はいい具合に強くなっている。お家芸のアイススケートや柔道、レスリングなども、もちろん奮闘しているが、このラグビーやわが愛する水球も32年ぶりにオリンピックの出場を決めたばかりだ。テニスの錦織圭選手も然り。

 ラグビー日本代表の五郎丸歩選手は1986年生まれ。錦織選手は1989年生まれ。水球日本代表の保田賢也選手も1989年生まれ。1987年4月以降生まれからが“ゆとり世代”といわれている。学校週休二日などの政府方針のゆとり世代は失敗とよくいわれるが、そんなこともないのかもしれない。

 この世代の人々はまだバブルの余韻を残すころに幼少期を向かえ、親はボクたちと同じ50代後半が平均の世代。ボクたちが、お受験も、サッカーも、野球も、スキーも、その子を支え、幼い頃から環境を整えた。大学時代から何らかのスポーツを始めても、下地ができている。昔のようにスポーツの英才教育を受けるのは特別な子どもというわけではなく、裾野が広がった。その分、いい選手が育つ環境ができたと思う。錦織選手が優勝すれば、子どものテニス教室がキャンセル待ちになり、五郎丸人気でいままで閑古鳥だったラグビー教室も入会が殺到しているという。スター選手のいるスポーツはその分、裾野が更に広くなり強くなっていく。これからも期待したい。

【2】イスラム国が日本人男性2人を殺害

 1月、拘束されていた、後藤健二さん、湯川遥菜さんの2人が、イスラム国によって、殺害された。このニュースには、テレビに釘付けになった。「殺害されるわけはない、どうにか助けてくれるよね?」。そう思っていた国民も多かったと聞く。

 殺害の動画の公開という衝撃的結末だったが、日本政府の動きは鈍かった。いや、なにか策を講じる動きをしているとは思えず、安倍首相に批判が集中した。いまでは「2億ドルは人道支援目的」と言い換えているが、事件直前、中東歴訪の際、カイロでのスピーチでは「イスラム国の脅威を食い止めるための2億ドル」と言っている。

 その後、「日本の首相へ」というメッセージをイスラム国が発信。「イスラム国と戦うために2億ドル支払った、同額の身代金を要求する」、ということになっていったのだった。素人のボクが考えても、なんとも政府が後手、後手に回っているとしか思えない。

 助けられる命が消えていってしまったのかもしれない。イスラム国という正気の沙汰ではない相手だとしても、もうすこし打つ手があったのではいかと悔やまれる。

【3】マイナンバーの通知が始まる

 2016年1月から、社会保障・税番号制度、通称「マイナンバー制度」の運用が始まる。総務省のHPによると、マイナンバーとは「国民一人ひとりが持つ12桁の番号のことです。今後、税や年金、雇用保険などの行政手続きに使います。マイナンバーの利用により、①税や、年金、雇用保険などの行政手続きに必要だった添付書類が削減され、これらの手続きでの皆様の利便性が高まります。また、②行政事務の効率化や、③公平な各種給付などが実現できます」。いいことばかりだ。

 だが、マイナンバーで国民がこうむるかもしれない、マイナス面も囁かれている。それは、①マイナンバーには個人のさまざまな情報が詰まっているので、情報が流出してしまうのではないかという懸念。②なりすまし被害の可能性。この2つがよく指摘されている。そして、広く言えば、国民が背番号制のように管理されるのがよくないという根本的な問題もあるとされる。

 運用開始に先立ち、2015年10月から個人番号(マイナンバー)を記した通知カードが郵送されているが……。日本郵便によると、12月27日現在の初回配達数5684.7万通のうち、配達完了が5126.2万通で90.2%、受取人不在などで市区町村に戻された分は、全体の9.8%にあたる558万通に上った。10人のうち1人が受け取っていない計算になる。

 それが多いのか少ないのか? やはり、もっと国民に説明が必要だ。

【4】関東、東北豪雨による鬼怒川氾濫などで8人死亡

 9月、記録的な豪雨により鬼怒川の堤防が決壊、たいへんな被害が茨城県常総市若宮戸地区で起こった。水が溢れたあたりは堤防がない区間が1キロ続いている。自然の土手が堤防の役割をしていたのだ。

 しかし、民間業者がソーラーパネルを設置するために、自然堤防の一部を削除したという。これが原因だったのではないかとNHKが報じた。これもひとつ原因だったかもしれないが、地球は人間の手でおかしくなっていることは確かだ。10年に1度の規模の記録的豪雨など、日増しに記録は伸びている。もう何が起きてもおかしくない。自然災害は人間の想定外のことなのだ。

【5】安全保障関連法成立で集団的自衛権行使が可能になる

 9月、安全保障関連法が参院本会議で与党の賛成多数で可決され、成立。そのとき、国会議事堂の周りを反対デモの群衆で埋め尽くされた。近年これほどのデモを目にしたことはない。デモは反対の声を限りに行われた。

 5月に安倍首相は内閣総理大臣の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が提出した報告書を受けて、記者会見で「日本が再び戦争をする国になる、といった誤解があります。しかし、そんなことは断じてあり得ない。日本国憲法が掲げる平和主義は、これからも守り抜いていきます」と日本が戦争にならないことを断言している。

 しかし……集団的自衛権行使が可能になるということは、少しずつ、少しずつ、綻びが解けるように、あらぬ方向に日本が向かってしまうのではないかとうい心配がよぎってしまう。

【6】横浜都築区の大型マンションの杭データ偽装が発覚

 

 10月、三井不動産レジデンシャルは販売した横浜市のマンション「パークシティーLaLa横浜」に傾斜箇所があることを住民から指摘され、ようやく地盤調査をした。

 傾斜の原因となる杭工事を、二次下請けとして請け負ったのは旭化成建材。旭化成建材は担当者の一人がデータを改ざんしたと発表した。

 本当にその一人の仕業なのだろうか? 最初の会見でそう思った人も多かったことだろう。書類、設計図は何名もの人が目を通す。ハンコも押すかもしれない。それなのに、何も知らなかった、一人が勝手にやったことだというのはあまりにも胡散臭い。

 その後、北海道などに建てられたマンションでも、データの改ざんが発覚した。同じデータの使いまわしとも言われていたが、チェック機能はどうなっていたか? わざと見逃していたと言われてもしかたない。今年は他にも、免震ゴム、血液製剤などのデータの改ざんが相次ぐ。海外でも、フォルクスワーゲン社によるディーゼルエンジンの排ガス規制データの不正が発覚した。

 本当に会社は知らなかったのか?

 そんなことはないと思うのが、普通の人間だ。

【7】東京オリンピックのエンブレム撤回騒動

 佐野研二郎氏がデザインした2020年東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムが、ベルギー人デザイナーのオリビエ・ドビ氏がリエージュ劇場のためにつくったロゴに酷似しているとの盗用疑惑が発覚。9月に白紙撤回された。

 まさか、こんな大仕事に、他人のものを真似してつくるなんてことは考えてもみなかった。いまでも信じられない。

 大きな話題となった頃、まだボクは佐野氏を信じていた。

 けれど、次から次に発覚する佐野氏の盗作疑惑。スタッフが、とのことだったが、盗作まで認めてしまった。こうなると、もうだめだ。

 だいいちオリンピックという国をあげてのイベントのエンブレム。こんなにケチがついたものでは縁起も悪い。

 その後、ベルギーで行われているIOCを被告としたエンブレム差し止めを求める裁判は、ベルギー劇場側が訴訟を取り下げた。佐野氏のエンブレムが使用中止になったからだという。ただ、デザイナーのドビ氏はIOCが盗作と認めない限り、和解には応じない姿勢だという。いまだ騒動は続いている。

 新エンブレムは、来年1月中旬にエンブレム委員会による審査が行われ、商標調査に進める作品を絞り込むそうだが、どうなるのだろうか?

 ケチがついてばかりのオリンピックが、本当に心配である。

【8】新国立競技場問題

 2020年東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場。イギリス在住の女性建築家、ザハ・ハディド氏のデザイン案が採用されていたが、当初は1300億円だった総工費見積もり額が2520億円へと倍増。批判が相次ぎ、7月、安倍首相が旧建設計画を白紙撤回することを正式に表明した。

 結局、12月22日、隈研吾さんと大成建設などのA案に決まった。決定したA案は緑に囲まれ、木材も多く使用されるスタジアムになるという。木材を多用というのは隈さんらしいし、日本らしいと思ったが、木材を多用したA案の工期が短いというのが意外だった。

 工期が短いなどという理由で決めていいのか? という疑問もあるが、取りやめになったザハ氏からは、「あまりに私のものと似ている」などと、またまた批判。ただ、批判はつきものである。

 決まったからには、日本の象徴となるような建造物となることを祈る。ただ、ボクはエアコンを付けたほうがいいと思う。このデザインでもまだ修正の余地があるとワイドショーでも侃々諤々だが、真夏の暑い時期に大観衆……大事故になる前に、手を打つべきだ。

【9】箱根山など火山活動が活発化

[写真]大涌谷が立ち入り禁止になったGW。神足氏は家族と箱根にいた。
[写真]大涌谷が立ち入り禁止になったGW。神足氏は家族と箱根にいた。

 5月、気象庁は「大涌谷近くで火山性地震が増えている」と発表。噴火警戒レベルが火口周辺規制の「2」に引き上げられて、ゴールデンウイークの箱根の観光に影響が出た。その後、6月に「小規模な噴火が発生した」として警戒レベルは「3」の入山規制に引き上げられる。9月に「2」、11月に「1」に引き下げられたのだが、大涌谷園地への立ち入りは規制されたままだ。

 人間が関与できない大きなレベルで地球は動いている。

 当たり前の話だ。

 その他、日本列島で火山の噴火が相次いだ。5月に鹿児島県の口永良部島の新岳で大規模な噴火、6月に長野・群馬県境の浅間山でも小規模な噴火があった。

 日本の火山は今後、活動期に入る可能性があると専門家は言う。しかも、大地震のあとに噴火が多いとも噂されている。地震による何らかの影響で、噴火が増えているのではないかというのだ。

 噂が噂を呼んでいる。

 しかし、本当に日本の噴火は増えたのかといえば、気象庁によると、大震災前後の約4年半で震災後に起きた噴火は9火山。震災前は7火山。そう目立って火山の噴火が増えているわけではないという。そのへんは、安心してもいいらしい。地震の影響云々ではなく、専門家によれば日本は110の活火山があり、どの火山が噴火してもおかしくない時代にはあるらしい。

 明日かもしれないし、100年以内には起こるかもしれないという。

 地球規模の時計ははかりしれない。

【10】パリ同時多発テロで130人が死亡

 11月11日から、パリにカメラの勉強に行っている知人と仕事のメールのやりとりをしていたが、急に連絡が取れなくなった。14日には安否確認が取れたが、本当に焦った。

 現地時間の11月13日夜、パリ市街と郊外のサン=ドニ地区の商業施設に、イスラム国の戦闘員と見られるジーハディストのグループによる銃撃と爆発が同時多発的に起こったのだ。死者130人。負傷者300人以上。

 サッカー場や飲食店など、普通の人々が普通に生活しているところで起こってしまった、今回の事件。テロはフランスがイスラム国への空爆を行っていたためという見方が有力だ。

 フランスはアメリカが主導する対テロ国際有志連合に加わり、イスラム国攻撃に加担してきた。アメリカやロシアに比べて、フランスは目だって攻撃をしていなかったが、やはり国境などの侵入が安易だったからとも言われている。

 今後、日本人が海外でテロに巻き込まれることも懸念されている。イスラム国の話をどこか遠く感じていたが、本当に身近で起こっていることを認識しなければならない。

〈筆者プロフィール〉

神足裕司(こうたり・ゆうじ) ●1957年8月10日、広島県広島市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代からライター活動を始め、1984年、渡辺和博との共著『金魂巻(キンコンカン)』がベストセラーに。コラムニストとして『恨ミシュラン』(週刊朝日)や『これは事件だ!』(週刊SPA!)などの人気連載を抱えながらテレビ、ラジオ、CM、映画など幅広い分野で活躍。2011年9月、重度くも膜下出血に倒れ、奇跡的に一命をとりとめる。現在、リハビリを続けながら執筆活動を再開。復帰後の著書に『一度、死んでみましたが』(集英社)、『父と息子の大闘病日記』(息子・祐太郎さんとの共著/扶桑社)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(妻・明子さんとの共著/主婦の友社)がある。Twitterアカウントは@kohtari