フロイト、ユングとともに“心理学の三大巨匠”と並び称される心理学者・アドラーの教えに注目が集まっている。昨年発売された書籍『嫌われる勇気』は大ベストセラーとなり、企業や教育現場でアドラーに関するセミナーが開催されると大盛況。
アドラーが説く子育て法を教育の現場で実践する、かつて小学校教諭だった原田綾子さんの“勇気づけ”教育とは?
「クラスのなかには、私語が多い子もいれば、落ち着きがない子もいるし、教師に反抗的な態度をとったりする子もいました。こんなクラスを引き継ぐことになり、当初はどうすれば子どもたちをまとめられるのか途方に暮れていました」
このように当時を振り返るのは、小学校教諭の経験とアドラー心理学を活用した子育て講座を考案。母親支援セミナーや講演、子どもの生きる力を育てる「勇気づけ国語塾」主宰。著書『アドラー式言葉かけ練習帳』(JMAM)などがある原田綾子さん。
いろいろな教育書を読んだり、先輩の先生にも相談したりしたが、意見はバラバラで何が正しいかわからない。原田さんは悩みに悩んだ末、自分が子どもたちにかけた言葉と、それに対する子どもたちの反応をノートに書いてみたところ、ある法則が見えてきたという。
「“うるさい”“静かにしなさい”などのダメ出しや叱責では状況が悪くなるばかり。ところが、“今日はイスに座って授業を受けられたね”“ちゃんと教科書を開いていたね”など、ちょっとしたことでも子どもを応援する態度で接すると、彼らが耳を傾けてくれることに気づいたのです」
これは、アドラー心理学における“勇気づけ”という手法に当たる。当時、アドラーを知らなかった原田さんは、無意識にアドラー的教育法を実践するようになっていた。
「教育現場では先生と生徒は上下関係(縦の関係)がないと成立しないように思われがちですが、これでは依存的な子どもになるおそれがあります。
先生を怒らせると怖いから指示・命令に従いますが、こうした教育は威圧的なので子どもの自信とやる気がなくなり自発的に行動しようとする勇気がくじかれるのです。それに先生に対する尊敬と信頼の念も失われて関係性が悪化し最悪の場合には学級崩壊に至ることもあります」