世の中にはさまざまな人がいるが、すぐ不機嫌になる人は厄介。会社の上司や夫や子どもたち。彼らはなにがきっかけかわからないが、気づけば不機嫌になっている。
面倒なのが、彼らが不機嫌になっている理由がわからないこと。こちらは悪いことをした覚えなどないのに、なぜか、怒っていて理不尽な態度をとったり、不愉快な言葉をぶつけてくるのでとても困る。こちらがなにか悪いことでもしたのだろうか? と自己嫌悪に陥ってしまうこともたびたび。
そんな、不機嫌な人・攻撃的になった人と一緒にいる際、自分を傷つけずに、その人と上手に距離をとる方法を、専門家に聞いた。
自分の気持ちに気づいてから、相手の気持ちを考える
「思考・感情・五感・イメージ・呼吸・声」などをトータルにとらえた独自の心理学「自分中心心理学」を提唱している心理カウンセラーの石原加受子先生は、こう断言する。
「まず、“私がなにか悪いことをしてしまったのかしら?”という発想はやめましょう。
私たちは“相手の気持ちを考えて”と教わってきているから、ついついやってしまうでしょうけど、むしろ相手の心を勝手に予測してしまったりすると、かえって自分が疲れてしまいますので、自分の感じ方のほうで、それを調整して、適切な距離感をとっていくほうがいいのです。
自分中心心理学は、わがままな『ジコチュー』という意味ではありません。まず、自分の気持ちに気づいてから、相手の気持ちを考える、というのが基本です。反対にあたる他者中心に考える人は、先ほどの“私がなにかした?”といった心理で動いています。
そうすると、自分自身がなにか引き起こした、それで相手を傷つけたら、今度は私が傷つけられる、それが怖い、という思考回路になっているのです。相手のことを思って、傷つけたくないんじゃない。“自分が傷つくのが怖い”が一番大きいのです。もしかしたら、他者中心の人のほうが『ジコチュー』といえるかもしれません」
自分が“怖い”“苦手だな”と思ったその気持ちを大切に
しかし、恐れること自体は悪いことではない、とも。
「現代の社会全体が、何があるかわからないわけだから、恐れることは悪いことじゃない。むしろ、自分が“怖い”“苦手だな”と思ったその気持ちを大切にしてほしいのです。それを認識すると、距離をとることができる。相手にぶつかる距離までいかなくなるんです。
反対に、他者中心な心理で、“ああ、嫌だなあ”と思いながら無理に接していると、それは相手に伝わります。そうすると、相手も嫌な気持ちに応えてしまうから、諍(いさか)いも出てくるでしょう」
イライラする、憎しみを感じる、恨みを感じる、この人といると無気力になる
距離をとるにしても、段階を踏むことが大切だそう。
「具体的に、段階を認識しておくといいですね。例えば、緊張しやすいとして、その仕方を基準にとっても、全員に同じ度合いで緊張するわけではないでしょう。それと同じように、人に対して感じる感情をはっきりさせればいいんです。
イヤだな、と思う人の場合、例えば、イライラする、憎しみを感じる、恨みを感じる、この人といるとホントにやる気がなくなってしまうといった無気力になる、の4つくらいでしょうか。そこの違いを知ることが大切です。
気がつくだけでいいんです。それで、そのときそのときで距離をとればいいだけ。
また、リアルタイムで“この人との距離がちょっときついな”と感じたら、“ちょっと用事を思い出した”などといってその場を立ち去るか“怖いなあ”と、言葉にするといいでしょう。うまく話題を変えられたら、それはもう、しめたものです(笑)。
他者中心の考えの人は、どうしても相手をやっつけて黙らせようとするもの。それは、自分が攻撃された、傷つけられたと感じているから」
距離がとれると相手も変わる
「相手とぶつかりそうだなと思ったり、自分自身ももっとムキになりそうだとか、相手をやりこめてやりたくなりそうだと感じたら、自分から引いてしまいましょう。早めに引いたほうが、自分が傷つかないですみます。
逆に、引くような行動ができたときに、自分が誇らしいという感じがします。自分に自信が持て、その場をおさめたうえに自分を守れたという満足感が出てきます。これがわかると、今回はここまでできた、次はこうしよう、と、楽しくなってきます。
そして、これがすごいところなのですが、こちらが適切な距離をとれるようになると、感情が直接ぶつからなくなってきますから、向こうも変わってくるんです。
最後に。これは人を理解するうえでとても大切なことなのですけど、急に黙りこんだり、攻撃的になっている人って、『窮鼠(きゅうそ)猫を噛む』の状態で、怯えているんです。
現状が変わることに怖がっているともいえます。相手がそんな状態のときには、距離をとると同時に、“ああ、この人は今、怯えているんだ、怖がっているんだ”と理解してください。そうすると、心がスーッと楽になって、先回りして悩むことも減ると思いますよ」
イラスト/アライヨウコ