■100万ボルトの超高圧線が自宅近くを通るとしたら
さらにリニアは沿線住民だけの問題ではない。リニアを動かすための高圧線が「どこか」を通るからだ。
リニアは従来の新幹線の3倍以上の電力を消費するが、実験線での電源は東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)。そこから実験線近くの変電所まで、日本初の50万ボルト(設計は100万ボルト)という超高圧電流が送られた。
100万ボルトの超高圧線の場合、200メートル離れても磁界値は4ミリガウスを示すというが、その値は電磁波を疫学研究した国立環境研究所の故・兜真徳研究員が「小児白血病の発病率が2.73倍、小児脳腫瘍は10.6倍になる」と結論づけた数値だ。この研究はWHO(世界保健機関)でも高い評価を得た。
JR東海は品川・名古屋間に10基のリニア用変電所を設置するが、どの発電所からどういうルートで高圧線を変電所まで敷くかについては、「電力会社で決められるものと考えている」と回答するだけ。もし超高圧線が読者の自宅近くを通れば、影響を受けるのは在宅時間の長い乳幼児になる。
■計画のずさんさを公にしたい
水枯れ、処分できない残土、掘り出してはいけないウラン残土、電磁波─。これらの問題にJR東海は「影響は少ない」「基準をクリアしている」と回答するだけで、その具体性の乏しい計画を国土交通省は'14年10月に事業認可した。
これに対し5月20日、天野さんを事務局長とする原告738人が、国交省に対して事業認可取り消しを求める行政訴訟を起こした。被告は国交省。だが「JR東海にも当然法廷に出てもらい、私たちの疑問に答えることで計画のずさんさを公にしたい」と天野さんは語る。長い闘いになる。
取材・文/樫田秀樹