国連から最低保障年金を作るよう勧告

 国は04年から100年かけて、積立金を少しずつ取り崩す計画を実行している。保険料や税金で足りない分を穴埋めするためだ。これに対し、「10年かけて100兆円を取り崩せばいい」と伊藤教授。

「高齢化のピークを迎えるのは9年後の2025年。それを過ぎたら、年金をもらう人はまた減り始めます。運用で損を出したり、かつて問題になったグリーンピアのようなハコモノを作る資金に流用されたりするぐらいなら、被保険者のために取り崩して使うべきです。積立金のうち10兆円を毎年取り崩して使えば、基礎年金の給付水準を上げられます。月8万円ぐらいにはなるのではないか」

 そのうえで、老後を安心して“暮らせる年金制度”に変えていく。伊藤教授の提案はこうだ。

「現在も基礎年金の半分は国庫負担が入っていますが、長期的に見れば、私はすべてを税金でまかなったほうがいいと思います。基礎年金の財源が保険料というのは、先進国では珍しい。そして積立金を使いつつ給付水準を上げていく。すると保険料を払っても払わなくても、最低生活費は年金で保障されます。最低生活のための最低保障年金を作るよう、日本は国連の社会権規約委員会から勧告されているんです。とにかく高齢者の貧困が甚だしい、と」

 最低保障年金とは、スウェーデンやノルウェーなどの国々で導入されている制度だ。例えばスウェーデンでは、所得に比例して支払われる年金のほかに、低所得などの理由で保険料が支払えない人も年金を受けられるよう、全額税金の最低保障年金を設けている。

 これを日本で作るとして、財源はどうするのかという声が聞こえてきそうだが、

「積立金を取り崩し、基礎年金の水準を引き上げている間に、消費税では無理なので税制改革をやっていく。所得税、法人税を引き上げれば、十分に財源を確保できるのではないかと思います」(伊藤教授)

 厚労省によれば16年、ひとり暮らしの高齢者は初めて600万人を超えた。その半数が貧困にあえいでおり、なかでも女性の“下流老人”が目立つ。そんな時代を迎えているからこそ、最後まで安心して生きていけるための年金改革を急がなければならない。