「この5件がいじめなの?」
学校での聴き取り調査のあと、仙台市が諮問した、専門家で構成する『仙台市いじめ問題専門委員会』(以下、委員会)も11人に同様の聴き取り調査を実施した。
そして委員会は昨年6月23日に答申を、次いで今年3月24日に第2次答申を出し、本件をこう結論づけた。
《からかいやあざけりがありそれら行為を受けた生徒は精神的苦痛と感じたが、いじめを行った生徒はふざけ合いとして許されていると認識し、その認識のずれが学校の指導で修正されなかったことに起因して重大事態が発生した》
同時にこう記述している。
《意図的に当該生徒だけを対象としようとしたいじめがあったとまではいえず、過度の集中性は認められない》
つまり、答申は、「からかいはA君だけに向けられておらず、悪意も執拗さもないが、A君はつらく受け止めた。その認識のずれを学校が修正できなかった」と理解できる。
「学校の指導で修正されなかった」とは、「問題発生後の対応方針を保護者と協議しなかった」とか「状況が好転したかをA君および保護者に確認しなかった」といった姿勢を指している。
委員会が重要視したのは以下の5件だ。
1 5月下旬、掃除の時間にからかわれて泣いた。
2 6月に、アイドルグループとA君が並んだ合成写真をLINEで流された。
3 7月。ショッピングセンターで、友人が隠れたのでA君が1人きりになった。
4 3の件で生徒指導のため臨時学年集会が開かれたが、A君は欠席。登校したら友人から「チクった」と言われた。
5 4のあと、「変態」や「寝癖がひどい」と言われた。
この答申に愛子さんは「この5件がいじめなの」と驚く。
問題はこのあと。答申で学校名は伏せられていたが、その後、公表されることで『河北新報』など地元メディアは11人を「加害生徒」と報じたのだ。
この事件は、従来のいじめとは性質が異なる。上記5件の行為には、明らかな暴力(殴る蹴るなど)も、明らかな無視や支配関係(使いっ走りなど)もない。あるのは、「からかい」だ。
愛子さんは顔を曇らせる。
「級友へのからかいは、どの学校にもあります。でも同時に仲直りもある。そうやって子どもは育つのに、加害行為として残るのかは疑問です」
実際、A君がからかわれて傷ついたとき、教師の仲介のもと、関係生徒は「そこまで傷ついたとは。ごめんね」と謝り仲直りしている。
少なくとも龍太君が関わった一件は、自殺の2か月も前。また、龍太君自身もA君からあだ名で呼ばれたりで、龍太君は「互いにふざけ合っていました」と筆者に語った。