「バブル崩壊後、主婦パート以外にも非正規が広がり、就職先がないから新卒で派遣という人たちまで出てきた。特に単身女性が目立ちます。'08年の年越し派遣村で問題視されたような男性非正規も増えました。そもそも派遣の賃金は市場の影響を受けやすいうえ守ってくれる労組のような存在も少ないため、値崩れしやすい。そうした流れのなかで貧困化が始まります。女性の貧困は今後、さらに深刻化していくでしょう」

 非正規として働く女性のなかには、正社員と変わらない仕事をこなす人も増えている。非正規なのに正社員と同じか、それ以上の仕事内容や仕事量を課されているのに賃金は安いまま。理不尽な働かせ方だが「どんどん広がってきています」と、労働ジャーナリストの渋谷龍一さん。

ブラックバイトは“主婦パート”の応用編

 世界経済フォーラムによる'16年版の男女平等度ランキング『ジェンダーギャップ指数』で、日本は111位と女性活躍を謳う安倍政権下で過去最低に。理由は、男女の所得格差。非正規女性の賃金は男性の半分しかない有様だ。

「その原点は主婦パート。社会保険料はかからないのに正社員並みの働きをしてくれて、時給は安くすむ。企業にとって、ものすごくお金が浮く存在なんです」(渋谷さん、以下同)

 主婦パートは全国に800万人いると言われている。

「安倍政権は正社員の女性を辞めさせないようにしていますが、実際に女性がたくさん進出しているのは非正規、なかでも主婦パートの世帯が増えています。夫のほうが高賃金なので家計補助のように見えるけれど、妻の稼ぎがなかったら生活が成り立たない。実質は第二主収入です。仕事では正社員同様の働きを求められ、家事や育児もやるという二重負担に晒されて、実はかなりの長時間労働を強いられているのです

 表が示すとおり、主婦パートとキャリアウーマン、専業主婦世帯を比べた調査で、最も家事をしない夫は主婦パート世帯だった。夫も長時間労働だからだ。家事・育児は自ずと妻が担うことになり、ますます賃金の高い仕事に就けなくなる。

「企業と政府が結託して、こき使うかわりに、税金を少し安くしてあげるからねと女性からぶんどっている状態です。800万人いる主婦パートにこんな扱いをしていたら、ほかの非正規にも影響しますよ。主婦パートの低賃金に引っ張られる形で男性非正規も賃金を下げられる。ブラックバイトもそう。生活を維持するために稼がなければいけないから、サービス残業も休日出勤もなんでもつけ込める。ブラックバイトは主婦パートの応用編なんです

 正社員も無傷ではいられない。

「主婦パートに比べて君たちの働きぶりはどうか、給料が高すぎやしないかと賃金を下げられたり、もっと頑張って働きなさいと労働時間が長くなったりします」

 政府は“働き方改革”として長時間労働の是正を打ち出している。実現すれば女性は働きやすくなるのだろうか?

 前出・竹信さんは次のように強調する。

「例えばヨーロッパでは、EUが労働時間に罰則つきの規制を設けています。8時間働いたら帰るという社会的慣習もある。だから女性たちも普通に働けて男性も家事育児ができる。残業が当たり前みたいな日本とは全く違う。男性に合わせて長時間働かなきゃまともに扱いませんよという日本流の“男女平等”ではなく、EU流を目指さなければ普通には働けません」