普通に考えれば、科学で扱うような話じゃない
――子育て中のママの悩みに科学の視点で迫るというのは、とても新しい気がしたのですが、どのようなキッカケでこの番組の制作は始まったのですか?
NHKスペシャルでは以前に「赤ちゃん 成長の不思議な道のり」という番組もあり、科学ドキュメンタリーの中にこういうジャンルはあったんです。でも、「子育ての悩み」を科学するっていうのは、初めてだと思います。普通に考えれば、科学で扱うような話じゃないですからね。
――番組の企画提案者は、子育て中の女性ディレクターだったと聞いていますが。
小林欧子ディレクターが書いた提案書が、そもそもの始まりでした。小林はそれ以前に動物番組を作っていて動物の子育てに詳しかったこともあり、自分が子育てしてみたら、とても違和感があったようです。
提案書には、「何でこんなに赤ちゃんは泣くんだ!」とか、「夫はなんでこんな頼りにならないんだ!」とか、「子育てはもっと楽しいはずなのに、なんでこんなにツラいんだ!」とか、そういう怒りをたくさん書きつらねていました。怒りだらけでした(笑)。
それを読んでいて、確かに小林の言うとおりだと思って、そう言えば以前、「母親としての能力は備わっているものではなくて、育つものだ」という話も別の企画で聞いていたので、これは番組にできるかなと。
――番組では「オキシトシンのホルモンには、わが子や家族への愛情を高める効果がある」「オキシトシンには、浮気防止効果もある」という話があり、オキシトシンのスプレーを男性にかける実験なども紹介していました。世のママたちは、ダンナの浮気防止のために、一家に1本、オキシトシンのスプレーを常備しておくといいでしょうか?
パパは、子育てに関われば関わるほど、じつはオキシトシンが体内で放出されます。家族と目を合わせたり、肌を触れ合ったりするだけでも大丈夫。番組ではそのように紹介しました。市販されているスプレーのことはよくわからないのですが、個人的には、スプレーに頼るよりも前に、他にいろいろやったほうがいいことがあるように思います。
正しい情報かどうかを見極めるために…
――浅井さんは今回の番組以外にも、多くのNHKスペシャル番組を作られているそうですが、どんなことを大事にして番組作りをされているんですか?
僕らが作っているジャンルが「科学ドキュメンタリー」ということもありますが、やはりいちばん気をつけていることは、視聴者に提供する情報が確かなものであることです。
今は、健康や子育てなどをテーマにしたテレビ番組って山ほどあるじゃないですか。パッと出てくる新情報っていうのはいくらでもあるんですけど、それが本当に正しい情報なのかどうかを見極めるのは、じつは難しいことです。番組を制作するスタッフはその見極めのために、国内外の膨大な数の論文を読み込んだり、著名な先生方のところへ何度も足を運んでお話を聞いたり、そういう地道な作業を欠かしません。
また、ただ見て流れて終わる番組じゃなく、できれば録画してまた見ようと思ってもらえる番組をめざしています。さらにいえば、今回のように、書籍やムックやマンガにまで展開されて、放送されて終わりではなく、違う媒体で新たなスタイルでも届けられるような番組にして、社会の下支えとなるような情報を、ひとつでも多く、ひとりでも多くの方々にお届けしたいと思っています。