「'09年から'14年の間に、群馬大学病院第2外科に所属する男性医師Aが担当した肝臓手術で18人(開腹手術10人、腹腔鏡手術8人)が亡くなった。報告書を見れば担当医の手術が下手だったことは明らか。しかし肝臓周辺の手術ができるのは第2外科でAだけだった。複数の医師が手術をする第1外科との競争意識もあったのか、適切な対応が取られないまま被害が続いた」
信じがたいことに、医療事故をチェックする安全管理部門に報告された死亡例は18件中1件のみ。別の医師が「危険なので中止させたほうが」という進言をしたが、A医師の上司にあたる教授は死亡例を知りながら、手術を止めなかった。
さらに、この教授は難易度の高い“腹腔鏡手術”に関しては未経験だったという事実も明らかになった。
東海大学医学部非常勤講師を務める北條元治先生が、大学病院ならではの事情をこう明かす。
「基本的に手術を行う場合は、手術方法や治療方針を決めるカンファレンスの中でいろんな意見を取り入れながら判断します。ただ、細分化されている大学病院では、群馬大学のケースのように上司が専門外の分野まで受け持つことがある。
すると上司は、“こいつはよく勉強していて信頼できる”など人間的な部分で部下を判断せざるをえない。上司であっても得意分野に長(た)けた医師には異議を差し込みづらくなるんです」
“医師の暴走”を許さないスタッフの力が必要
'14年、東京女子医大病院では脳腫瘍の女性に対し、通常の16倍のてんかん薬を投与。院外薬局から「量が正しいのか」と問い合わせがあったが、担当医が自己判断を貫いていた。
『湘南鎌倉総合病院』の副医院長・小林修三先生は憤りを交えて2つの事例の共通点を次のように指摘する。
「本来なら、倫理委員会で手術の停止勧告がなされて当然なのに、死亡例を隠蔽したまま手術が行われたり、薬の処方量を見直さないまま照会が無視されたり、どちらも医師の独断専行的な名誉欲を誰も止められない体制だったことが原因。当事者はもちろん、病院全体で大きな問題を抱えていたことは明らかです」
つまり、“横柄な医師の暴走が目立つかどうか”も、病院選びの指標のひとつ。
「うちの病院でも、3回もしつこく薬剤師が間違いを指摘して、ようやく医師が聞き入れたケースが過去にありました。1回目は“うるさい”2回目は“さっき言ったとおりだ”、3回目で初めて“ん〜……”と耳を貸す。薬剤師や看護師の忠告を受け入れる医師の器量、もしくはひとりの医師の独断を許さない周辺スタッフの力が、安全な病院づくりには欠かせません」
都内の総合病院に勤める看護師も、“医師の性格に問題があっても、上がしっかりしていれば事故は防げる”と言い切る。
「看護師や薬剤師の指摘を“うん”とか“すん”とか生返事で対応する医師はいます。腹が立ちますが、そんなときは医局長にチクって指示を出してもらいます。それで必ず見直しがされる」
高学歴の有名ブランドに左右されて「大学病院だから安心」と選びがちだが、それは大きな間違いだと、田辺さんは強調する。
「一般的な病気は地域の中核病院で診てもらったほうがいいでしょう。大学病院で尊重されるのは研究に役立つ珍しい病気にかかった患者です。研究することが彼らにとっての大きな役割ですから」