親から子へ、子から孫へ。芸と名跡を伝承していくのが、伝統芸能だ。そして、来年1月の襲名披露公演では、父から右近の名を継いでタケルくんが初舞台を踏む。
「あまり子どもを子どもとして扱えない人間だったんです。子どもを抱くということも怖くて、人形の子どもは舞台で何度も抱いているんですが、人形以外の子どもは抱いたことがなかったんです。
46歳で授かったもんですから、やはり自分の子どもっていうのはまったく違うんですね(笑)。いまとなっては人様のお子さんも抱っこできるし、あやしたりできるんですけど、最初はどうなるものかと。
成長するうちに、私のまねをしてみたり、立ち回りの稽古を一緒にしてくれとか言いだしまして、この子は歌舞伎が好きなんだなと。それで3歳くらいのときに“歌舞伎をやりたいの?”と尋ねたら、“やりたい”と言ってくれたんです」
31年前に猿之助が演じた役を…
初お目見えは今年6月に本名の武田タケルで行っている。だが、今回は右近としての初舞台。歌舞伎役者としての第一歩だけに、父親も気が気でないようだ。
「(セリフを)よく覚えてくれていますよ。かなりしゃべっているんです。『雙生隅田川』というお芝居なんですけど、その中で梅若丸、松若丸という両役を早変わりでやるんです。'85年には、今の四代目猿之助さんが、10歳になる1か月前にやってらっしゃるんですよ。
それで、猿之助さんが“タケルくんの初舞台は『雙生隅田川』がいいんじゃないか”とおっしゃってくださって。四代目さんからのおすすめでもあり、その演目に決定したんですね。まあ、その当時の四代目は名子役でしたからね。
10歳の名子役と駆け出しの6歳では、本当どうなっちゃうんでしょう(笑)。ただ、タケルは歌舞伎が好きで一生懸命、覚えてくれています。でも、自分のことと違って子どものことは大変ですね。生みの苦しみといいますか……」
息子の初舞台を心配している右近だが、彼は歌舞伎の家の出身ではない。11歳で三代目猿之助のもとに入門し、小学校卒業と同時に上京する。