戦前のファシズム体制のような暗黒社会に!?
憲法学者はどう見ているのか。名古屋学院大学の飯島滋明教授(憲法学・平和学)は、「改憲論者が本当に目標としているのは、自衛隊の海外での武力行使を可能にするため、戦争や武力の行使を禁止している憲法9条を変えることです」と言い切る。
「自民党などの改憲派は、9条改正が国民の支持をすぐ得られるとは思っていないため、支持を得やすいと思われる項目から改憲を目指しています。現段階では、大規模自然災害などに対処する『緊急事態条項』や家族は互いに助け合わなければならないという『家族条項』、『環境権』、高校・大学などの『教育無償化』の追加が有力です」(飯島教授)
いずれも一見、“あってもいいかな”と思えるような項目だ。しかし、仮に国民の理解を得られる内容になったとして、その法整備は憲法を変えるしかないのだろうか。
「教育無償化を例にとると、本人の能力に応じた教育を国や自治体が提供することは憲法26条の『教育を受ける権利』が求めていることであり、憲法改正は必要ありません。別の法律を制定し、政策として実現すればいいだけの話です。緊急事態条項も、自然災害に対応するだけであれば、災害対策基本法などがすでに存在しているので必要ありません」(飯島教授)
首相に権限を集中させる緊急事態条項をめぐっては、東日本大震災の被災地からも「不必要」との声があがっている。法の対象は災害のほか「有事」も含まれそうで、何をもって有事とするかで拡大運用される心配もある。
自民党の憲法改正草案では、自衛隊を国防軍に変えることも盛り込まれている。
「憲法9条で《陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない》と定めていますので、変える必要が出てきます。それだけでは終わらないでしょう。宣戦布告や戦争終結、軍法会議に関する規定を導入したり、国民を戦争に協力させるため、憲法18条が改正される可能性が高くなります。徴兵だけでなく、医師、看護師、技術者、土木、建築、通信、輸送などにかかわる民間人を徴用できるようになり、戦前のファシズム体制のような暗黒社会をもたらす可能性が高まります」(飯島教授)