実際、夜更けまで起きていてたくさん食べてしまった経験があなたにもあるのではないでしょうか? 先のサンディエゴ大学の調査では、「短時間睡眠の女性は、肥満度を表すBMI値が高い」という報告もあり、最もBMI値が低かったのは平均睡眠時間の7時間眠っている人たちだったという結果が出ています。
スタンフォードの研究でわかった「最強の覚醒」
おそらく、「自分の睡眠に満足している」という方はごくわずかではないでしょうか。「睡眠がまったく不足していなかったとき」のこと、あなたは思い出せますか?
多くの方が「眠りの借金」とともに生きているわけですが、ではそんな「借金」が解消されるとどんなことが起きるのでしょうか?
睡眠負債を返せば、パフォーマンスが劇的に向上することを示した、スタンフォードの実験があります。それは、スタンフォードの男子バスケットボール選手10人に40日、毎晩10時間ベッドに入ってもらい、それが日中のパフォーマンスにどう影響を及ぼすかを調べた調査です。
大学生とはいえ、彼らはもともとセミプロレベルの高い実力を有する選手たちです。80メートルの反復走を16.2秒で走り、フリースローの成功率は10本中8本、3点シュートなら15本10本成功という優秀な選手たちばかりなので、飛躍的な向上は難しいと当初予想されていました。
しかし、2週間、3週間、4週間と経過するうちに80メートルのタイムは0.7秒縮まり、フリースローは0.9本、3点シュートは1.4本も多く入るようになったのです。
さらに、先の医師たちと同じタブレットに出現する図形に反応するテストをしてもらったところ、なんとリアクションタイムもよくなっていることがわかりました。
日々の激しいトレーニングによって上達した可能性もありましたが、40日に及ぶ実験が終了し、選手たちの睡眠時間が元に戻ったとたん、彼らの記録は実験開始前に戻ってしまいました。
これらの結果から、睡眠負債を返済できれば、脳と体ともに、とてつもないパフォーマンスを発揮できることがおわかりいただけるでしょう。
西野精治(にしの・せいじ)◎スタンフォード大学医学部精神科教授。1955年大阪府出身。1987年、当時在籍していた大阪医科大学大学院からスタンフォード大学医学部精神科睡眠研究所に留学。2005年にスタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNラボ)所長に就任。睡眠・覚醒のメカニズムを、分子・遺伝子レベルから個体レベルまでの幅広い視野で研究している。