普通の会社でも犯罪組織に?
まず、過去の政府案で“団体”とされていた適用対象が“組織的犯罪集団”に変わった。
「字面だけ見ると犯罪を繰り返しているような、まさに暴力団をイメージするかもしれませんが、それだけに限らない。たとえ普通の会社であっても“団体の性格が変わったときには組織的犯罪集団になりうる”と金田法相も認めています」
それを判断するのは捜査当局。取り締まる側にゆだねられてしまう。
「これで構成要件を厳格化したと言われていますが、何の歯止めにもならない」
また、犯行に合意した時点で共謀罪は成立。途中でやめたとしても、摘発されてしまう。
「例えば、自衛隊の官舎に“南スーダンから即撤退”というステッカーを貼り付けようと話し合えば、建造物損壊罪の共謀罪になりうる。貼りに行こうとすること自体が罪になりますから、実際に貼る前に捕まってしまいます」
’06年の国会で、法務省刑事局長から「目配せでも共謀罪は成立する」と聞き出したのは当時の保坂展人衆院議員(現・世田谷区長)。だが、海渡弁護士がネット時代に懸念するのは“現代版の目配せ”だ。
「今のデジタルな世界で、目配せが何に当たるかというと、おそらくLINEの既読スルーではないかと思うんです。政府や法務省はまだ認めていませんが、論理的には適用されうる。
また、LINEはグループを作ったりもするし、そこでのやりとりは記録として残る。これも場合によっては組織的犯罪集団とみなされ、ログが犯行の証拠となるおそれもあります」
さらに今回の法案では、共謀罪を処罰するには準備行為が必要となる。だが、どんな行為が該当するのかは不明瞭だ。
「例えば、ATMでお金を引き出したり、食事をとったりする。日常的に誰でもやっているようなことが準備行為になりえます」
と海渡弁護士。準備行為と誰がどう判断するのか?
「捜査当局のさじ加減ひとつ。どうにでも勝手に解釈できます。まず逮捕して、ガンガン取り調べをして自白させればいい。あるいは電話やメールを盗聴して、証拠を押さえるとか」
恣意的な捜査を防ぐ歯止めにはなりえない。