瑠璃色の海の向こうに、ハチミツ色に輝く美しい城壁。グランドハーバーを挟み、セングレア島の先端に立つ六角形の監視塔から、マルタ騎士団が築いた首都ヴァレッタの重厚な要塞都市が見える。地中海に浮かぶマルタでは、古代から人と猫が仲よく暮らしていたという。今でもその関係は変わらず、わが物顔で街を闊歩(かっぽ)する猫たちに会うことができる。
賑やかな観光客が去り、静寂が訪れた街の石畳を夕日が赤く染めるころ、今までどこに隠れていたのか、太っちょの猫がノシノシ歩いていく。地元のおじさんたちの足元にちょこんと座って井戸端会議に参加したり、「お腹すいたニャ」とばかりに、カフェのお客に甘える猫もいる。
旅行会社の調査で、行ってみたい海外のネコスポット堂々の1位にランクインしたマルタ。首都のあるいちばん大きなマルタ島、緑豊かで静かなゴゾ島、スカイブルーの海が美しい小さなコミノ島の3つの島からなり、総面積は東京23区の約半分。住民によると、その小さな国に、人口の倍近い70万匹の猫が暮らしているというから驚きだ。訪れてみると確かに、右にも左にも、上下にも、気づけば猫。猫好きには憧れの島だろう。
シチリア島の南に位置するマルタは、古代からさまざまな民族が住みつき、アフリカや西欧、アラビアなどの文化の影響を受けて発展してきた。中世にはキリスト教における「地中海の防波堤」としてイスラム教のオスマン帝国と戦ったマルタ騎士団により、攻めにくく守りやすい難攻不落の都市が建設された。
首都ヴァレッタは、街がまるごと世界遺産に認定されており、ぐるりと城壁に囲まれている。騎士団の財力で建てた豪華絢爛(けんらん)な聖ヨハネ大聖堂や、対岸の街『スリーシティーズ』の全貌が見渡せる展望公園『アッパーバラッカガーデン』など見どころも多く、今も住民と猫たちが仲よく暮らす。
騎士団が今にも出てきそうな中世の面影が残るヴァレッタの夜道を歩いていると、レストランの入り口に座り込んだ茶トラ猫が「にゃあ」とご挨拶。店のお姉さんが「いらっしゃい、今日は魚だよ」と皿を運んできた。もぐもぐとお行儀よく食べる“お客さん”に目を細めながら「毎晩、閉店近くになると来る子よ」。ノラ猫でも性格がのんびりして毛並みがいいのは、心優しい「行きつけの店」があるからだろうか。