献身とタダ働きに支えられた部活
長い労働時間に加えて、とりわけ中学・高校の教員にとって大きな負担になっているのが「部活」だ。最近は『ブラック部活』という言葉まで登場している。
内田准教授によれば、
「平日が苛酷なうえ、部活があるため土、日も休めません。教員実態調査によれば、10年前に比べて、小学校教諭で1日あたり49分、中学校教諭にいたっては109分も部活などの時間外活動が増えています」
だが意外なことに、負担軽減を求める声は、職員室からは聞こえてこない。
「“子どものために自分の時間を割いてこそ先生。部活を指導してこそ一人前”という文化が根強いからです。これは信仰と言っていいほど強烈です。最近は職種を問わず、日本全体の問題として働き方が議論されていますが、職員室に限っては無風状態。もし教員が疑問の声を上げたら、“あいつは教師失格”とのレッテルを貼られかねないのが実情です」(内田准教授)
そんな中、現状に風穴をあけるため、SNSを通じて発信する教員たちが出現。ツイッターアカウント『kaoru』ことkaoru先生も、その1人だ。
1日16時間以上も学校にいるという長時間労働の実態についてのツイート(記事冒頭の写真)が大きな反響を呼び、4万5000回以上もリツイートされ、広く拡散された。
kaoru先生は近畿地方の公立中学に勤める現役教員だ。学級担任を務めながら週5日、4クラスで計20時間の授業を受け持ち、運動部の顧問も担う。
「本来の勤務時間は8時から17時。ですが、7時から部活の朝練が入っていますから6時30分には学校にいます。授業は9時スタート。授業のほかに、道徳、総合(的な学習の時間)、学活が週20時間ぐらい。それ以外にも8時間ぐらい、不登校の子どもたちへの対応にあたっています。
授業後も部活。16時から始まり、夏は19時まで練習に付き合います。それから書類作成や保護者への電話連絡などにあたって、帰宅は21時か22時ぐらい」
家に帰り着いても、まだ1日は終わらない。
「多いときで1時間~3時間ぐらい、持ち帰った仕事をして就寝。翌朝5時には起床します」
kaoru先生が部活のあり方に疑問を感じ始めたのは、顧問に就任した直後のことだ。授業の準備時間がほしいと、その日に限り欠席を上司に願い出たら、「口では“いいよ”と言ってくれるんですけれど、顔と口調が“ダメ”と言っている。この学校では、勉強より部活の比重が大きいんだと気がつきました」
部活、部活の毎日で、精神的に不安定な子どもがいても話を聞く時間がない。
「手を抜いてもいちばん害がないのが、授業になってしまっている」
部活偏重は保護者からの要請によるところも大きい。例えば、スポーツの強豪校は勝利至上主義に走りがちになり、熱心な親の求めに応じて、部活も過熱していく傾向がある。
それとは別に、内田准教授が「無料の保育所状態」と指摘するタイプの“期待”もかけられている。
「土、日の部活を休みにしたら“なんで?(子どもが)家でゴロゴロされていても困るんだけど”って言われました」(kaoru先生)
そんな部活の残業代はゼロ。休日手当がわずかに支給されるほかは、タダ働きだ。教員の仕事にやりがいを感じているが、「このままでは10年後も続けているかわからない」とkaoru先生はこぼす。