「送料無料」サービスがなくなる日も近い!?
5月22日、『ヤマト運輸』は今年10月1日からの宅配便の基本運賃値上げを発表した。また、’14年よりネット通販会社などの大口顧客向けにも値上げ交渉を続けている。割引幅が大きく、採算割れしている法人との契約打ち切りも始まった。9月末までには交渉を終える予定だが「送料無料」を謳う通販会社にも余裕はなく、値上げ分が利用者の送料負担に転じる可能性も大きい。
東京・銀座にあるヤマト本社で、広報担当者に27年ぶりという値上げの根拠をあらためて尋ねてみた。
「宅配便のネットワークの維持、ドライバーが生き生きと働ける環境作りへの投資が理由です。再配達の予防にもなる宅配ロッカーの拡大も進めることで最終的にはお客様によりよいサービスを提供して利便性を向上できればと考えています」
ヤマトは、値上げと同時にサービスの見直しも行う。
「個人のお客様でも、われわれの集配効率を手助けいただける場合は、運賃を割引するサービスも新たに拡充しました」
例えば荷物を送るとき、デジタルの送り状を利用すればあらかじめ受取人にお届け日時が通知されてヤマト運輸の集配効率が高まるため『デジタル割』50円割引の対象に。また、クロネコメンバーズ会員が直営店へ荷物を持ち込めば、『持ち込み割』150円が適用される。そのほか、発送時に直営店での受け取りを指定すると『宅配便センター直送サービス(仮称)』で50円お得になるという。
しかし、ヤマトの値上げには冷ややかな意見も多い。
「値上げの前に、再配達問題に取り組むべきだった」と角井氏は指摘する。
「全体の2割といわれる再配達には、年間2600億円、9万人分の労働力が注ぎ込まれています。取り扱い60億個時代に対応するには、まず再配達ゼロを目指す必要があります」
角井氏は、スマホのアプリを使うのが有効と話す。
「ヤマト運輸の会員サービス『クロネコメンバーズ』や宅配研究会が開発した『ウケトル』などのスマホアプリを使い、確実に受け取れる日時を宅配業者に知らせる方法がベスト。仕事中でも通知を受け取ることができるので、不在票を見なくても再配達を依頼できる。これだけで10%以上の不在配達を減少できると実証ずみです。
また、宅配ボックスや共同宅配ロッカーも荷物の大きさによっては便利に使えるし、コンビニ、営業所受け取りなどの方法もある。消費者にお願いしたいのは、安易な時間指定、再配達の指示をしないこと。早く自分の荷物を受け取る努力をすること。そしてドライバーや配達員にひと言“お疲れさま、ありがとう”と言ってほしいですね」
角井氏は業界統一ポイントの導入にも期待を示す。
「1回で受け取ったらポイントが貯まり、再配達ならポイントが引かれるシステム。罰金や追加料金ではなく、年間1家族2万円たまるようなポイント制度を作ろうと。宅配大手3社が協力すれば実現できます」
一方、前出の横田氏は、送料無料に警鐘を鳴らす。
「フランスは、’14年に『反アマゾン法』を作りました。これによって書籍の“送料無料”を禁止にした。労働者や書店を守るためにね。日本ならきっと反対の声が巻き起こるでしょう。送料無料が魅力なのはわかる。いちばんの問題は、ヤマトや佐川がきちんと大口顧客と価格交渉をしてこなかったことなんです」
そしてヤマトの値上げがどう影響するかに注目。
「もしも運賃単価が上がったら、9割の大口顧客との交渉の成果と考えていい。そうしたらドライバーの待遇にも影響はある。ぜひそうあってほしいと願います」
ヤマト本社の取材を終えたとき社内アナウンスが、「本日はプレミアム・フライデーです。仕事を早めに切り上げて退社いたしましょう……」
宅配会社のプレーヤーはドライバーである。彼らの過酷な労働と銀座本社のプレミアム・フライデー。複雑な思いで、われわれは銀座を後にしたのだった。