セックスしたら、私たちの関係はもっとつまんなくなる

 多忙な二人は、現在も平日の昼間に抜け出しては、色々な場所に遊びに行っている。翔太は家庭があるため、土日に会うことや、お泊りはできない。しかし、美央は会社が変わった今でも相変わらずの社畜体質で、仕事と勉強に打ち込んでいるため、そのほうが都合がいい。

 ディズニーシー、江の島、よみうりランド、映画館。二人は色んな場所に行った。

「会社さぼっていいかな? ってLINEしたら、“たまにはいいと思うよ。じゃあおれもさぼる”と返ってくるんです。“どこ行きたい? 今日は美央ちゃんの好きなこと全部しよう”“とりあえず、小田急に乗って行けるとこまで行こうか”って」――小田急線で終点の江の島まで行き、鎌倉の大仏を見て、海を見ながらカフェでパンケーキを食べる。砂浜でじゃれ合って、ごはんを食べて帰る。

 当然ながら、セックスはしない。

「セックスしたら、私たちの関係って、もっとつまんなくなると思うんですよ」

 だからこそ、当初のような燃え上がる感情ではなく、穏やかながら、固い絆で結ばれた関係なのだと美央は思っている。そう、決して簡単な道のりではないだろうが、このままいけば50歳になったときに、翔太と一緒になることだって決して夢ではないのだと――。

 最後に、不倫についてどう思っているか、美央に聞いてみた。

「いや、奥さんに悪いと思ったことなんて、一度もないですね。恐らく、私たちみたいな関係のほうが、下手な肉体関係よりも嫌だろうなとは思いますけど……。でもやめるつもりは全然ないんです」

 美央の話を聞いていて感じたのは、現実の不倫には、わたしたちが見過ごしている社会の矛盾や歪みに疲れ果て、SOSを発している女性のはけ口になっている面があるということだ。

 何もかもがうまく行かず、すべてのことに絶望して、誰かにすがりつきたいと強く思った時、わたしたちは、その救いの手を“誰かのものになっている”異性に求めるかもしれない。しかも既婚者は、それを受け止めるだけの精神的な余裕や包容力を持っていることが多々ある。

 不倫相手とは、そんな社会の生きづらさの中で、渇いた心を潤してくれる一縷(いちる)の望みなのかもしれない。


<著者プロフィール>
菅野久美子(かんの・くみこ)
1982年、宮崎県生まれ。ノンフィクション・ライター。
最新刊は、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)などがある。孤独死や特殊清掃の生々しい現場にスポットを当てた、『中年の孤独死が止まらない!』などの記事を『週刊SPA!』『週刊実話ザ・タブー』等、多数の媒体で執筆中。