楽屋で座った姿すら、凜として美しいーー。
当代一の女形・五代目坂東玉三郎。歌舞伎界への貢献により、'12年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されたが、現在でも舞台に立ち、ファンを魅了している。
“昭和の名曲”を歌うワケは
そんな歌舞伎界の重鎮は最近、意外(?)とも思える、“歌”での活躍の舞台が増えてきている。現在は、コンサートツアー『坂東玉三郎 越路吹雪を歌う「愛の讃歌」』の真っ最中。
また、日本人歌手として初めてレコードのプレス枚数が1億枚を超えた、昭和歌謡界の重鎮・三橋美智也さん(享年65)の追善コンサートツアーにも出演しており、“昭和の名曲”を歌っている。
「年齢を重ねると、だんだんと声が出なくなっちゃうんですね。それで舞台のために発声の練習を始めたんです。練習を始めて15年くらいたって、“ここまで発声をやったんだから、歌ったら?”という声をいただいていたなかで、ちょうど昨年、越路さんの追悼があって、そこで歌わせていただきました。
それがきっかけで、三橋さんのコンサートに出演させていただく機会にもつながったんです」
坂東は'17年3月に『越路吹雪三十七回忌特別追悼公演』に出演し、同年11月には越路さん(享年56)のカバーアルバム『邂逅~越路吹雪を歌う』をリリースしている。彼女との出会いは、同じ歌舞伎界の盟友がきっかけだった。
「いまの白鸚さん、前の幸四郎さんが染五郎時代に、越路さんと共演した舞台『王様と私』を拝見したのが初めてでした。'65年だったと思います。その後も、越路さんの舞台には何度も足を運びました」
若いころの坂東は、歌舞伎界の先輩以外に、初代・水谷八重子さん(享年74)や杉村春子さん(享年91)といった大女優に生き方を学んだという。そのひとりが越路さんだった。彼女とは雑誌の連載企画で対談する機会があった。
「舞台に上がる“姿勢”を学ばせていただきました。本番を迎えるまでの準備とか、自分で海外に行き、取材をしていろんな歌を仕入れ、それでお客さまのためにリサイタルを見せていた。とても丁寧に答えてくださり結果、私はトレーナーさんも、歯医者さんも、美容院も、耳鼻科も越路さんと同じところに通うことにしたんです」
越路さんと同じく三橋さんのコンサートへの出演も、歌舞伎界とのかかわりが。