チュートリアル徳井義実に約1億円の税金申告漏れ、および2000万円の所得隠しをしていたという騒動が世間を騒がせている。

 急遽開かれた会見では神妙な表情を浮かべ、確定申告をしていなかったことについて「明日にしよう、明日にしようとどんどん先延ばしにしていた」と説明。ほぼ、小学生の夏休みの宿題に対する感覚と同じである。数年前に『メルカリで読書感想文を買って提出する』という珍ニュースが問題になっていたが、徳井の納税にいたっては、'16年からの3年間に至っては申告すらしていない“未提出”である。

 そんな彼は会見でこう続けた。

《『徳井が出ていると気分が悪い、お前はもう仕事をしなくていい』という判断をされたら、仕事ができなくなっても致し方ない》

 その言葉はネットニュースで《世論次第では“引退も”》というタイトルに変換され、大きな反響を呼ぶこととなったわけだが、ここ数年の芸能界の謝罪会見を振り返ってみると非常にツッコミどころが多かったことが思い出される。

 山口達也が号泣しながら「TOKIOに席があるなら戻りたい」と復帰願望を表明してみせたかと思えば、闇営業問題で吉本に反旗を翻した宮迫博之は「なんだか芝居がかっていてうさんくさい」とメディアに取り上げられるなど、罪とは別に会見それ自体も責められがちだったような気がする。あと、AAAのリーダー浦田直也がレンズなし黒縁メガネで汗だくだったこともか。

『チューリップ』、そのわけわからなさ

 そう考えると、今回の徳井のケースは特殊である。今や徳井を称して“超好感度高い芸人”といっても否定する者はいないだろう。そんな彼が、「私が引退するかはあなたたち次第です」というわけだ。意図的に狙って発言したかどうかはわからないが、なんだかズルくて巧妙にみえてしまう。

 実際、徳井の数ある出演作のなかでも出色の人気を誇る『テラスハウス』のファンの反響はすごかった。

《徳井さんが居なくなったらテラハの面白さ半減するからそれだけはまじやめてくれないか。。》

《徳井のいないテラスハウスとか考えられない》

 『謹慎』あたりをすっ飛ばして、『引退も辞さない』と大きく振りかぶることで、「いやいや、そこまでしなくていいよ!」の声を獲得することに成功している。

 そして何より、彼にとって予期せぬ“棚ぼた”だったのは、節税のため(?)につくった会社名が『株式会社チューリップ』だったことかもしれない。いくらネットニュースが重々しいトーンで、

《お笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実が設立した個人会社「株式会社チューリップ」が東京国税局の税務調査を受け、2018年までの7年間で計約1億2000万円の所得隠しと申告漏れを指摘された問題》(Business Journal )

 と報じようが、記事を全部読み終わったあと、もう一度戻って確認してしまうのは『チューリップ』のところ。やはりというべきか、グーグルで「チューリップ」と打つと、予測変換(サジェスト)の上位に「株式会社」「会社」などが出てくる。みんな気になってしょうがないのだ。

 今回の一件で、芸人が個人事務所を持っている例として、ほかにも明石家さんまの『オフィス事務所』、極楽とんぼ加藤浩次の『有限会社加藤タクシー』、ココリコ田中直樹の『靴のタナカ』などが報じられていた。ちょっとした大喜利状態になってはいるが、言わんとしていることはわかる。

 だが、『チューリップ』って言われるととたんに迷路に迷い込む。なぜそう名づけた、と意識がそっちにもっていかれてしまう。

 たとえばこれが『トクイ・インベストメント』とかだったら、だいぶ印象が違っていただろう。いかにも悪どそうな社名だったなら、世論はもっと厳しいものになっていたかもしれない。脱力感満載の『チューリップ』というネーミングで命拾いした部分は少なからずあるはずだ。

 吉本が徳井の謹慎の可能性について「全然ない」と強気に出られるのは、意外とそんな理由からだったりして。

〈皿乃まる美・コラムニスト〉