「べんさ〜ん!」
子どもたちの大きな声に招かれ手作りのステージに、たかはしべんさん(70)が登場した。10月末、埼玉県志木市みわ幼稚園のホールには、年少から年長までの園児全員が集まっていた。べんさんはギターを抱え、間を取りながら子どもたちに話しかける。
「あのさ、べんさんさ」
べんさんの声は不思議だ。低く響く声でそう言うだけでクスクスと笑い声が起こる。
「あのさ、べんさんさ」
繰り返すと子どもたちの笑い声は大きくなり、小さな頭がさざ波のように揺れる。
「あのさ、べんさんさ、みんなのお父さんやお母さんが生まれたころから歌ってて、歌のお兄さんって言われてたんだ。でも40年もたってさ、年とっちゃったからさ、歌のおじいさんって呼ばれるようになりました。やだなあ」
40年間で5000公演
子どもたちはすぐにべんさんの世界に吸い込まれていく。べんさんは、「お隣のお友達とギュッてしてみよう!」と声をかけ、こんな歌を歌う。
「例えば 夏の暑い午後/大好きなアイス食べていて/ポトンと土に落っことし/泣きたくなることあるでしょう/そんなとき そんなとき/ちっちゃな声で おまじない/涙の止まる おまじない/ねーギュッてして」(『おまじない』)
子どもたちは隣の友達とギューッと抱き合って、リズムに乗って揺れている。先生も、子どもたちとギュッと抱き合う。ホール全体が幸せな空気でいっぱいになった。
べんさんはいつも、コンサートの3時間前には会場に入る。機材を詰め込んだバンを自ら運転し、日本全国、保育園や幼稚園、学校や公民館、福祉施設など、どこへでも出かけていく。これまで40年間の活動で5000公演を行ってきた。マネージメントは、東日本は森田悠哩子さん(60)、西日本はなみきひろこさん(62)が分担している。2人は活動を支えて25年以上になる。
会場に入ると自ら機材を運んでセッティング。子どもたちの顔を思い浮かべながら、プログラムのリハーサルをし、微調整をする。
「大人のちょっとしたひと言ってさ、子どもにすごく影響を与えちゃうんだ。自分を嫌いになることもあるし、その逆に、自分を大事に思えるようになることもある。だから僕はいつも、君って生きているだけで素敵だよ! って伝えるために歌っています」