「もう学校へ行きたくない」

 東京都立川市の小学5年生、紗季さん(11歳、仮名)がそう言い出したのは、1学期の終業式だった。新型コロナ感染拡大防止のため、政府は一斉休校を要請。全国の学校では5月8日まで休校となり、東京都はは5月31日まで延期となった。

挙手回数のノルマ設定

 紗季さんの学校は6月に入ると分散登校が始まり、クラスの雰囲気はこれまでのものとは打って変わり、決して居心地のいいものではなかった。そんな中、担任教諭からの不適切な指導を理由に紗季さんはストレスを抱え、登校を渋り出した。

 2学期が始まると、精神的な影響があるのか不眠や過食の症状が現れ、ついに不登校となってしまった。

 紗季さんは5年生になるまで、ほかの児童や教師との関係を理由に学校へ行きたくないと思ったことはなかったといい、1学期も無遅刻、無欠席。しかし、終業式から帰ってくると、母親の友梨さん(33歳、仮名)に、はじめて「学校へ行きたくない」と口にしたという。

 一体、何があったのか。心配になった友梨さんは、紗季さんやほかの児童や保護者から学校での娘の様子を知るために話を聞くと、紗季さんがストレスを抱いた原因となった、担任教諭の「不適切な指導」の内容が明らかになる。

 友梨さんが作成した「事実報告書」によると、紗季さんのクラスだけ授業中の挙手回数のノルマ設定があったという。分散登校明けとなった6月15日の週にはノルマはなかったが、翌週からノルマは設定され、しかも、各授業で1回、次週からは2回、さらに次次週からは4回に増えたという。ノルマに達しない児童がいた場合は授業の最後に立たされ、授業内容の聞き取りがなされるという。少なくとも、紗季さんにとっては相当なストレスになったようだ。

 紗季さん本人に話を聞いた。

「間違えても挙手をすればいい。それで挙手が一回となりますが、授業に集中できないんです。そもそも、みんなの前で間違えるのは恥ずかしい。だから、できるだけ当たらないように、手をあげた人が多いときに、私もあげました。でも挙手のカウントが足りず、最後に立たされたことがありました」

 母の友梨さんは「今年は新型コロナ対策があり、休校処置があったので、本来、12か月かけて行う授業を10か月でしなければならないので、学校側にも負担があるのでしょう。でも、それは子どもも同じく負担があるんです。教師と子どもの信頼関係がないのにノルマを科しても、いい方向にいくとは思えません」と話す。