連日報道される殺人事件。日本で起きる殺人の半数は、家族間で起きているという。「野田市小四虐待死事件」「池袋暴走事故」ほか、これまで多くの加害者家族を支援、『家族間殺人』(幻冬舎新書)を上梓したNPO法人World Open Heartの理事長・阿部恭子さんが実例とともに家族間での殺人について伝える。あるとき、阿部さんに届いた加害者本人からの手紙。そこに書かれていたこととはーー。
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9月20日、東京都・羽村市で、息子への嘱託殺人容疑で保釈中だった77歳の女性が、今度は74歳の妹を殺害するという事件が起きた。女性は、自宅で転倒し骨折して身体が不自由になった妹から「苦しいから殺して欲しい」と頼まれ、電気コードで首を絞めたと供述している。次々と家族に手をかけた女性に一体何があったのか、注目が集まっている。
このように、介護や育児の限界により、家族の将来を悲観した末の心中殺人、配偶者間のドメスティック・バイオレンス、虐待死事件など、家族間で起きる殺人は後を絶たない。全国的に報道されないケースも数知れず、もっとも身近で起きている殺人にもかかわらず、多くの事件は真相が解明されないまま世間から忘れ去られていく。
一方で、加害者家族でありながら、同時に被害者家族でもある家族は、なぜ事件が起きてしまったのか、真実を求めてきた。ここでは筆者がこれまで見てきた実例を元に『家族間殺人』について考えていく。
殺人犯になった弟
「事件を知った時は耳を疑いました。まさか、あの子が人を殺すなんて……」
ひとみ(30代)の弟・雅樹(30代)は、ギャンブルで嵩(かさ)んだ借金が妻に知られ、離婚を迫られるが受け入れられず、妻を殺害するに至った。
世間ではよくある“ギャンブル好きの暴力夫による妻殺害事件”として片づけられ、よくも悪くも関心を集めることはなかった。
「弟は真面目に働いていましたし、暴力を振るう子ではありませんでした。奥さんのほうがしっかりしていて、尻に敷かれている雰囲気でした。借金だって、家族に相談してくれれば返せない金額ではないし、ギャンブルは嫌いだったはずなんですが……」
ひとみが話すには、雅樹の母親(80代)は事件を聞いてから外出できなくなり、今では寝たきりの生活になってしまったという。“人を殺したんだから、死刑になっても仕方ない”と、息子に面会しようとも裁判に関わろうともしなかった。おそらく懲役17年を言い渡された息子と再会できる日は来ないだろう。
弟を許すつもりも庇うつもりもない。ただ、何が弟を殺人犯にしたのか、真相が知りたいーー。ひとみはその一心で、真相を知るべく公判すべてを傍聴した。
「ああいう人、サイコパスっていうんでしょ」
あるとき、傍聴人の会話が耳に入った。
なぜギャンブルにのめり込むようになったのか、妻を殺さなければならなかったのか。結局、雅樹の口からその理由が明かされることはなかった。